*Love not to arrive*




幻想。



妖しいフォントで金に印刷されたタイトルに、紫、灰、黒の三色を絶妙に混ぜて作られた模様の表紙。
あまり気分のよくなる本ではないことが一目で分かる。
私も最初は気が乗らなかったものの、読むものが無くなった。
棚のものを全て読むと補充されていた魔法の棚。

残ったのはそれだけだった。


頁を捲る毎に頭の中がかき乱されていくけれど、悪い気はしない。
最後まで読みきった時の満足感を考えてからかもしれない。
このなんとも言えない感情が晴れわたるのだと思うと、それすら心地よく感じた。





全体の四分の一ほどにさしかかった時。
機械音がなった。
ふいに視線を外すと、作動するホログラム。

浮き出たホログラムには朝霧楓という例の監視員の名が表示されていた。
要は此処に訪れるのだろう、横に時間が映っている。
時計に目をやると、あと十分ほどだと分かった。

ベッドから立ち上がり、本に栞を挟む。
どんな人なのだろう、と頭の端で考えつつ、クローゼットを開ける。
男性だということを無意識に考量していたのか、可愛らしいカーディガンを手にしていた自分。
少し自嘲してから、頭を切り替えていく。


(どのような人間か分からない。用心して話さないと)


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