届カナイ愛ト知ッテイタノニ抑エキレズニ愛シ続ケタ…
「…えっ?」
驚いたのは、あたしの方。
まさか、お兄ちゃんの名前が出てくるなんて。
ドクン
ドクン
凍りついた鼓動が、胸を突き刺す。
「私、秋君とは高校の同級生で。かわいい妹がいるんだって、写真を見せてもらったから。」
「そうなんですか。」
苦笑いで答えるのが精一杯。
「先週、高校の同窓会で会ったばかりなの。」
嬉しそうに話す美緒ちゃんとは別に、あたしは完全に引いている。
こんな所でお兄ちゃんと繋がるなんて。
ゴクリと息を飲みたくても。
呼吸が止まりそうなくらい苦しい。
「本当に可愛いね。高校の時、秋くんが好きで妬けたな。妹が一番だったし、てっきり、二人は近親相姦なんて噂になってぐらいだよ。」
なんて笑った。
本当だったら、笑いながら話せることなんだけど。
この人は、お兄ちゃんの本性を知らない。
一体、何人を殺したのかも。
「あっ!あたし、帰りますね。実は、行かなきゃいけない所があって。断るのも悪いから、顔を見に来ただけなんで。」
慌ててイスから立ち上がった。
一秒でも早くここから離れたい。
もし、お兄ちゃんでもここに呼び出されたら。
考えただけなのに、恐怖で体が震える。
「なんだ、秋くんの話ししかったのに。それじゃあ、また今度ゆっくりね。」
美緒ちゃんがニッコリ笑った。
あたしも必死にニッコリ笑って、足早にそこから離れた。
「唯どうした?」
突然あたしが帰った意味が分からず、尚吾と秀が慌てて追い掛けてきた。
「なんでもない。ごめん。」
嫌な予感が頭を埋めつくす。
お兄ちゃんに、居所がバレるかもしれない。
連れ戻されたらどうなっちゃうか分かっている
前に一度連れ戻された。
誘拐とかって嘘をついて、警察使って探し出して。
その時、監禁状態で常に見張られていた。
上手く目を逃れて脱走したけど、今度は男といたなんてなったら、そうはいかなくなるかも。
不安で押し潰されそう。
苦しい。
呼吸の仕方も忘れたみたいに。
息が出来ない。
平然を装っても、小さく体が震えて止まらない。
「唯にお兄ちゃんがいたとはなぁ。」
尚吾は何も知らないから。
普通に話しかけてくる。
だけど、うつむいたまま。
何も答えられない。
「あの子達の話からして、相当モテたみたいだな。秀より凄いのか?」
「…。」
「唯ちゃん?」
「…あっ。ごめん。なに?」
完全に上の空。
秀に呼びかけられなければ、完全に気付いていない。
会話する余裕なんて全くない。