届カナイ愛ト知ッテイタノニ抑エキレズニ愛シ続ケタ…

「…えっ?」

驚いたのは、あたしの方。

まさか、お兄ちゃんの名前が出てくるなんて。


ドクン

ドクン


凍りついた鼓動が、胸を突き刺す。

「私、秋君とは高校の同級生で。かわいい妹がいるんだって、写真を見せてもらったから。」

「そうなんですか。」

苦笑いで答えるのが精一杯。

「先週、高校の同窓会で会ったばかりなの。」

嬉しそうに話す美緒ちゃんとは別に、あたしは完全に引いている。

こんな所でお兄ちゃんと繋がるなんて。

ゴクリと息を飲みたくても。

呼吸が止まりそうなくらい苦しい。

「本当に可愛いね。高校の時、秋くんが好きで妬けたな。妹が一番だったし、てっきり、二人は近親相姦なんて噂になってぐらいだよ。」

なんて笑った。

本当だったら、笑いながら話せることなんだけど。

この人は、お兄ちゃんの本性を知らない。

一体、何人を殺したのかも。

「あっ!あたし、帰りますね。実は、行かなきゃいけない所があって。断るのも悪いから、顔を見に来ただけなんで。」

慌ててイスから立ち上がった。

一秒でも早くここから離れたい。

もし、お兄ちゃんでもここに呼び出されたら。

考えただけなのに、恐怖で体が震える。

「なんだ、秋くんの話ししかったのに。それじゃあ、また今度ゆっくりね。」

美緒ちゃんがニッコリ笑った。

あたしも必死にニッコリ笑って、足早にそこから離れた。

「唯どうした?」

突然あたしが帰った意味が分からず、尚吾と秀が慌てて追い掛けてきた。

「なんでもない。ごめん。」

嫌な予感が頭を埋めつくす。

お兄ちゃんに、居所がバレるかもしれない。

連れ戻されたらどうなっちゃうか分かっている

前に一度連れ戻された。

誘拐とかって嘘をついて、警察使って探し出して。

その時、監禁状態で常に見張られていた。

上手く目を逃れて脱走したけど、今度は男といたなんてなったら、そうはいかなくなるかも。

不安で押し潰されそう。

苦しい。

呼吸の仕方も忘れたみたいに。

息が出来ない。

平然を装っても、小さく体が震えて止まらない。

「唯にお兄ちゃんがいたとはなぁ。」

尚吾は何も知らないから。

普通に話しかけてくる。

だけど、うつむいたまま。

何も答えられない。

「あの子達の話からして、相当モテたみたいだな。秀より凄いのか?」

「…。」

「唯ちゃん?」

「…あっ。ごめん。なに?」

完全に上の空。

秀に呼びかけられなければ、完全に気付いていない。

会話する余裕なんて全くない。

< 362 / 570 >

この作品をシェア

pagetop