届カナイ愛ト知ッテイタノニ抑エキレズニ愛シ続ケタ…
57 ナクシタヒト
秀が凄く心配してくれていた。
だけど、忘れかけたはずの霧生くんへの気持ちを消化したくて。
ひとりぼう然と帰った。
家の玄関を開けるとダダダダっとものすごい勢いで、慌てた顔のお姉さんが走って迎えてくれた。
「やっぱり、尚吾君とケンカしちゃったのね?」
気落ちした顔をしながら、小さくため息をついた。
「なにが…ですか?」
何で尚吾の話が出てくるの?
秀から何か聞いたのかな?
不思議に思って。
ポカンと口を開けた。
「昨日、酔い潰れたじゃない?尚吾君が部屋に連れていってくれようとしたんだけど、私起き上がったとき吐いちゃって。尚吾君の服をダメにしちゃったの。それで着替えもなかったから…朝、裸でいたから唯ちゃんに誤解させちゃったと思って。」
沈んだ表情を浮かべた。
「そうだったんですか。」
ポツリとつぶやいた。
なぜかガクッと肩の力が抜けた感じ。
尚吾とお姉さんが何もなかった。
誰とでもヤレるわけじゃないんだ。
どこか安心している自分がいた。
それなのに、今は霧生くんが死んだショックの方が大きくて。
素直に喜べない。
「大丈夫です。あたし、尚吾とケンカしたわけじゃないですから…。」
「本当に?でも、目が腫れているし…。」
ジッとあたしの顔をみた。
「……今日、秀から聞いたんです………あたしにっとて、凄く大事だった人が亡くなったって…。」
思い出しただけで、ポロポロと涙が溢れてきた。
「そうだったの。」
お姉さんの顔は、一段と沈んでいく。
「あたし、自分で気付かない振りしていたけど、ずっと好きだった人なんです。家を出るきっかけにもなったし…あの人を探すことで、あたしは頑張ってこれて…でも、もう…忘れなきゃいけないんですけどね。」
涙を浮かべた顔で、精一杯笑ってみせた。
お姉さんは、ギュッと抱きしめてくれた。
「大丈夫。唯ちゃんには、尚吾君がそばにいてくれるから。」
優しくつぶやいた。
「でも、あたしには無理なんです。」
お姉さんの腕をほどくと顔を見上げた。