届カナイ愛ト知ッテイタノニ抑エキレズニ愛シ続ケタ…

「知らないですが。」

クルっと振り返り、ハッキリと答えた。

「そうですか。では、この資料を差し上げます。」

蔵橋の口元が笑っている。

持っていたカバンの中から青いクリアファイルを取り出し、側にあったデスクの上に置いた。

そのまま倉橋は一礼をして、怖い微笑を浮かべながら立ち去った。

どうせ何かの事件の資料だろ?

気にも留めなかった。

重大な少年犯罪の犯人か、参考人で探しているのはいつもの事だし。

今時、少年犯罪なんて珍しくもないからな。

たまに家出捜索や補導者でいないかとか、資料がくるくらいだし。

いちようは、青いファイルをめくってみた。

<蒔宮紗羽に関する資料>

と、書かれていた。

蒔宮紗羽の生い立ちから兄妹関係。

兄の犯罪記録。

そして、それをもみ消した事実。

それだけじゃない。

蒔宮紗羽には、ずっと探している人がいる事。

その名前。

そこには絶句としか言いようのない内容が書き込まれていた。

イスに深く腰をかけると、じっくりとその資料を読み出した。

小さい時から信頼していた大好きな兄に裏切られ、何も信じられなくなって中学生の時に家を出た。

追い討ちをかけたのは、大好きだった霧生学が失踪した事。

その原因が、全て兄に仕組まれていたと知ったとき。

そして調査書の最後の所に

『追記』

と、書かれている項目があった。

それには霧生とは一度再会をしているが、亡くなった事。

もしかして綾瀬唯が知っているかも。

たしか、補導された『G』ってクラブには、家出した子が集まっているみたいだし。

年齢的にも近いからな。

今度、聞いてみるか。

納得しながら、ひとりつぶやいていた。

そのまま青いファイルをデスクの引き出しにしまった。
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