届カナイ愛ト知ッテイタノニ抑エキレズニ愛シ続ケタ…
73 傷跡~side海翔~
綾瀬は、ちゃんとこのまま帰るか?
不安な部分はあったけど、目の前にある仕事は待ってはくれない。
小さなため息をつきながら、仕方なく仕事に戻っていった。
取調べやら報告書をまとめたり、保護者の引き取りを終えたり…。
ひと段落した頃には、朝日が昇り始めていた。
疲れきった森崎が、大あくびをしながらオレのデスクの斜め横に、イスでスライディングしてきた。
「なぁ、海翔。あの親戚の女の子さ…。」
森崎にとっては、なにげない一言だったかもしれない。
それでも、オレの背筋は冷たくなりパソコンを打つ手の動きが固まった。
恐る恐る目だけ森崎を振り返る。
「あの子が、どうかしたのかよ?」
精一杯の答えはそれしかない。
「名前なんていうかと思って。」
「なんだよ、急に…。」
何かがバレタのか?
頭の中は、それしか浮かばない。
「いや、海翔の親戚にしては可愛かったから。」
森崎の口元はいやらしいくらいゆるんでいる。
「な…なんだよ。そんなことか。」
ホッとした脱力感が全身を覆って、思わず口にしてしまった。
「そんな事って。あんな可愛い親戚いるなら、紹介くらいしてくれたっていいのにさぁ。」
ポンポンと2回オレの肩を叩くと、顔を覗き込んだ。
森崎のウザイくらいのニヤケ顔をよけると、カタカタとパソコンを打ち始めた。
「かわいいか?大体アイツまだ17歳だぞ。」
「かわいいよ。17歳かぁ…」
夜勤で疲れきった森崎の目は、妄想の世界へと旅立っていった。
その様子を見て
「森崎…犯罪だぞ。オレさぁ…ワイドショー用に、スーツ新調しとくわ。」
そう言いながら、首をかしげ再びバソコンを打ち始めた。
そんな言葉も気にせず、妄想世界に行ったままの森崎だったはずなのに。
「海翔の親戚だからか。オレさぁ、どっかで見たことがある気がしたんだよ。」
会話の結びつきなんて一切ないその一言に、ピタリと動きが凍った。
妄想世界にいながらも、するどい突っ込み。
まさか…
補導されていた子だって気づいたのか?