届カナイ愛ト知ッテイタノニ抑エキレズニ愛シ続ケタ…

「はっ?鍵って?」

「家の鍵!!」

困惑している海翔の声に、自分でも理解不能なくらいイライラがつのって。

思わず少し声を荒げてしまった。

それでも冷静なまま。

「家の鍵がなんだよ。」

イマイチ分かってない海翔。

「家の鍵がないんですぅ。帰りたくても、帰れないんですけどぉ。帰ってくるなって事ね。」

イヤミとしか言えない。

海翔を怒らせるような言葉しか、口からは出てこない。

なのに、少し驚いたような声で

「違うだろ?前に鍵は渡しただろ?」

不思議そうに答えた。

確かに、一緒に住み始めた時に鍵は貰っていた。

でも…

「忘れてきた。」

真っ赤な嘘。

楽しそうに女の人といる海翔を想像すると、モヤモヤして仕方なくて。

思わず嘘をついて電話した。

電話の向こうからは、ハァッと深いため息が聞こえる。

「わかたっよ。今から帰るから、待っていろよ。」

そう言うと電話を切った。

ドンと海翔を待ち構えていたかのように、家の玄関の前で腕を組みながら、あぐらをかいて座って待っている。

「珍しいじゃん?綾瀬がこんなに早く帰ってくるなんて。」

イヤミだってすぐに分かる。

だって、あたしの顔を見た瞬間。

大きなため息をついて。

ムッとしながらあたしの顔を見たから。

「海翔が、早く帰って来いって言ったんじゃん。」

ボソッと答えたけど。

顔はムッとしたまま。

別に海翔が悪いわけじゃないのに。

この胸の中のモヤモヤが、イジワルな自分にしてしまう。

「そうだけど…」

モゴモゴと口をモゴつかせて言葉の出ない感じは、やっぱりデートだったんだ。

「海翔さぁ、今日の人って彼女?」

灰色なモヤが胸の中にかかりはじめて。

気にする必要もないのに。

何食わぬ顔して聞いてみる。

「別に…まだ彼女ではない。」

微妙なニュアンスの答え。

なぜかチクッと痛む胸の奥と。

ホッとしているような感覚の胸の中。

「ふ〜ん。」

興味なさそうに答えているけど。

心の中の灰色のモヤが、グルグルと心を包んでいく。

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