新撰組のヒミツ 弐
次に光が目を開いたのは、薄暗い部屋の中。ぼんやりとした頭でどうにか状況を掴もうと、薄目で周りを見回せば、オレンジに揺れる蝋燭が立っているようだった。


(……ここは……誰かの家?)


いつの間にか布団に横になっていた。再び知らぬ間に妙な場所に来てしまったようだ、と半ば可笑しさすら感じていた。


身体を起こしてみれば、肌に触れるさらりとした生地で作られた、大きな黒い着流しを身に纏っていることに気付く。


(あれ、いつの間に……?)


どうしても回らない頭で考えていると、座っていた光の背後から、いきなり襖が開く音がして、彼女は肩を震わせる。


「起きたか。……身体はどうだ」


黒い着物を着ており、この時代には珍しいと言えるであろう短髪をした若い男がいた。


容姿は整っていたが、鋭く細められた目と引き結ばれた口とが、全てを冷たい印象に仕立て上げている。


彼は無表情のまま言葉を紡ぎ、光に言葉を投げおろしていた。


誰か、と問いたかったが、彼の持つ威圧的な雰囲気がそれをよしとしない。逡巡した光は、「……はい、大丈夫です……」と小さく呟きを漏らす。


「そうか。なら、これを食え」


彼から差し出された盆には、粥や少しばかりの漬け物、箸が乗せられていた。もう何日もまともな食事をとっていなかった光は、途端に腹の虫が騒ぎ出す。


そっと受け取ると、箸を取った。


一口、二口。ああ……甘い。


随分前に炊いたのであろうか、粥は冷たくなっていたが、惜しみながら少しずつ食すそれは、今まで食べたどの料理よりも美味しく感じるほどだった。


「味は保証しないが……」


「……とても美味しいです」


食事という行為は、以前までは――以前というほど昔ではないが――日常に溶け込んでいる当たり前のことであった。


しかし、この数日でそれは間違いであったことに否が応でも気付かされたのである。無くしてから初めてそれがあったことに気付くのだ。

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