新撰組のヒミツ 弐
止め処なく流れ落ちる涙を袖口で拭い、光は悲嘆に暮れる。大切な人は光の前から消え、また独り残されてしまうのか、と。


「あ…………」


まだこんなに温かいのに。
人の温もりを持っているのに。


胸の奥で何かが溢れてきて、一瞬で粉々に砕け散ったかと思うと、胸に残ったのは死んでしまいそうな悲哀のみだった。


「……ぁあ……ぁああ……」


先生の身体はここにあるのに!


「うあああぁああぁあ……!!」


――もう、彼の魂はここに無いなんて。


どうしても現実を受け入れたくない光は、先生の亡骸にすがりつく。温もりを奪われないよう、彼が冷たくならないように一部の隙間も無く、力の限り抱き締めた。



先生はあたしの生きる目的だった!


守ることであたしは救われた!


誰よりも強いのに――何故!?



「な、ぜ……死ん、だのですか……!」



自分の上擦る声すら耳障りだ。


師が死んでしまうのなら、自分もただ死後の世界へ共に逝きたかった。しかし、どこまでも優しくて不器用な師は、光に死を望まなかったのだ。


“無様でも生きろ。命あっての物種だ”と、光には一見悟ったような言葉を吐いておいて、師自身はどうやら生き恥を曝したくない思いを抱いていたらしい。


「……先生…………」


心は空虚でも、体は師を見つめ続けた。その姿を眼の奥の脳に刻みつけるかのように、光は物言わぬ彼を凝視する。


むせかえる血の臭いが充満した部屋は、光以外の生の気配は無く、ただ光のすすり泣く声だけが響いていた。


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