新撰組のヒミツ 弐
賭場の中にある端金と、絡んできた浪士から拝借した安物の刀を携え、光は立花に従って裏路地を抜けていく。


背後で雇い主が何か吠えた気がしたが、最早、光には関係ない。


そして、意外にも到着した場所は大きな屋敷だった。人の出入りは多く、上品で雅な雰囲気が漂う場所に光は困惑した。


「……ねえ、ここであってるの?」


「ああ。入るぞ」


薄汚い格好の笠男。汚くはないが、上品な場所には不似合いな、やくざものの格好をしている光。完全に二人だけが浮いていた。


門番に立っている男が光の行く手を遮ったが、立花がそれを制す。
「こいつは新しい奴だ」


門番は一礼して下がり、定位置に戻った。何も話さない門番が何とも言えず不気味であり、光はさっさと歩く立花を追いかける。


「――主って、どんな人?」


「……まあ、何というか――……」


立花は言葉尻を濁す。笠で表情こそ見えないが、その声音は困惑を含んでいた。しばらく言葉を模索した後、立花は小さく呟いた。


「すこぶる気位が高く、綺麗なお方だ」


「へえ。女なんだ」


この時代では珍しい女主人というものに、光は唇を吊り上げた。たおやかな美が好まれる中で、高飛車な美しい女というのもまた珍しい。


「普通の女なものか……! 舐めて掛かれば命を落としかねない。丁寧な言葉遣い、礼儀作法を決して忘れるな。必ずだぞ!」


「そんなに恐ろしいのか。大の男が」


「……情けないと思うだろうな、お前は。
確かに、腕っ節が強い方ではないが……あの方の交友関係や財力、情報網や忍は、その筋では名が通っている」


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