新撰組のヒミツ 弐
そのまま光は答えずに無表情でいると、雪はますます面白そうに笑みを零し、立ち上がって距離を取った。後ろにあった座敷に腰掛け、跪く光を観察するように眺める。
「貴方はここで何を手に入れたいのかしら」
「……情報を。師の仇を討ちたいんです」
「理由は分かりました。
……ただ、貴方に一つだけ忠告をするとすれば、裏切りは許さないということよ。万が一裏切ったときには、死ぬよりも怖い目に合わせてあげるわ」
美しい顔に凄惨な笑みを浮かべる雪は、やはり女夜叉であると強く思った。隣で立花が身動き一つしないのを感じながら、光は「分かりました」と頷く。
「それで、あたくしに、貴方のお師匠さんのことを詳しく教えて下さるかしら?」
気取ったように、愉しげに言葉を落とす雪に頷き、光は今は亡き師匠、矢武鹿助に想いを馳せた。
*
雪と詳しい話が付き、立花と共に部屋から退出した。扉をそっと閉めた瞬間、光の全身に気だるさが重くのし掛かり、思わず大きなため息を吐いてしまう。
「主様はお前を気に入ったようだな。名前で呼ばせて頂ける者は少ない」
「……全然嬉しくないな、それ」
くだらない、と軽く鼻で笑った光だが立花の言葉にその皮肉の笑みすら凍りつく。
「しかし……矢武鹿助、か」
「知ってるのか!?」
驚愕の表情で立花に詰め寄る光を余所に、立花は一切動かずにそのままでいた。笠が邪魔で表情が分からないのがもどかしい。
「……裏では彼の使う流派は有名だ。乱走刀華二刀流。聞こえは良いが、中身はあらゆる流派を組み合わせた、でたらめで無節操。だが、無敵の流派」
「…………」
「強さを顕現したものだ」