新撰組のヒミツ 弐
今の京の街は、優美で美しい皮を被った魔の巣窟であることに間違いは無い。
一見、その華やかさに目を奪われる街並みも、一皮剥けば危険な思想を持った浪士たちがうろつく、非常に危険な地域だ。
先の政変で長州は入洛が禁止され、表立った浪士はあまり見られなくなったのだが、少しずつ彼らは増えてきている。
そもそも新撰組は捕縛を主とするのだが、抵抗される場合が多く、やむなく斬り捨てることがあった。
それで、京の民からは畏怖嫌厭の眼差しを受けることが増えている。
(ああ、嫌な感じだ……)
肌がチリチリと粟立つような感覚に、腹が震えるような違和感。
殺気だ。
光は、今まさに殺気が自分たちへと向けられていることを感じ取っていた。露骨な殺気は隊士たちに向けられ、光はさり気なく辺りを見回す。
(四人程度か……何を企んでいるのか分かったものじゃないな。こそこそ付け狙うなんて、ろくでもない奴だ)
胸の内で軽く舌打ちをした光は、隣にいた隊士の耳元に「何者かいるようです」と、さり気なく、だがはっきりと呟きを落とした。
するとその隊士は、四方を確認した後、先頭を歩く原田にその旨を伝える。原田は一瞬だけ目を鋭くし、歩を止めて柄に手をやった。
「誰だ、出てこい!」
原田の声が路地にまで響き渡る。
注意深く辺りを見回す光は、突如、背後から刺すような殺気を感じ、即座に抜刀すると振り返った。
刀の擦れる音を耳にした隊士たちも、光に続いて抜刀する。
背後を見ると、そこにはやはりというか、浪士とみられる五人が今にも飛びかかろうという具合に、刀を構えていた。
「壬生狼……同胞の仇……!」
先頭に立つ浪士は、一番後ろにいた隊士に刀を振り下ろす。だが、日々鍛えて成長した隊士が易々と斬られるはずもない。
それからは、浅葱の隊服を目印に戦う乱戦となった。隊士たちはやむを得ず、斬る策に変更すると、あっという間に視界が赤に染まりだす。
だが、光は一人の浪士に気を奪われていた。自ら動くことなく、浪士の命が散りゆく様を、まるで桜の花が散るかのように、じっと見つめていたのである。