新撰組のヒミツ 弐
――カタ……。
夜半、微かな物音が暗い部屋に響く。本来ならばその程度の音など聞き逃してしまいそうな物音だったが、光は直ぐに目を覚ました。
だが、起き上がらず手元に置いてある脇差しを取った。狭い室内であるから、太刀は向かないだろうと判断したのだ。
そっと刀を引き寄せて、部屋の外を窺う。
ス……と、障子が敷居を滑る音。
いよいよ怪しい。店の主人には部屋に入ってこないよう伝えたはずである。生真面目そうな主人が、おいそれと破るとは考えづらい。
「――誰だ」
素早く身を起こした光は、柄に手をかけて暗い声で問うた。微かに光が漏れている入口を見れば、誰かがこの部屋に忍んでいることは明白である。
――ズッ……。
今度は、畳を足が逆目に擦る音。
夜目が利くと自負していた光だが、漆黒の暗闇と忍び寄る足音は、恐怖をもたらす代わりに冷静さを奪い取っていく。
――ミシッ……。
背後で鳴る、い草の乾燥した音。
聴覚だけが異様に研ぎ澄まされ、些細な物音も聞き逃さない。素早く脇差しを抜こうとする光だが、突如として腕を掴まれ、足を払われた。
背中をしたたかに打ちつけ、苦痛に呻く。
「誰だ! 離せ――!!」
金属のような冷ややかさと共に感じたのは、首に掛かる圧力だ。息苦しい感覚。
息が。息が出来ない。ああ、苦しい。首を強く強く絞められていたのだから。
「うっ……はな……せ……!」
身体を押さえつけられ、馬乗りになられた状態で首を閉めてくる何者か。
光はその何者かの手を逆手に掴むと、思い切り膝で腹やら鳩尾やらを狙う。
そのがむしゃらな動きを予期できなかったのか、確かな感覚を膝を捉えた。腹だろうか、柔らかなそれはどうやら女のものだ。