新撰組のヒミツ 弐


相手が小柄な女だと分かったから余裕が出来たのか。光は心配そうな表情さえ浮かべて女に近付き、光が蹴ったと思われる彼女の腹の辺りを少し強めに押した。


「――ぃっ……」


顔を歪める女に申し訳なさがこみ上げる。知らなかったとはいえ、こんなに細身の女の腹に、渾身の膝蹴りを入れてしまった。


だが、襲われたのも事実だ。もう少しで殺されていたところだったというのに、ここで謝るのもおかしい気がする。


とは言っても、彼女は主の側仕えらしい。それは力量を見極めるためだったのだ。ならば同業者と言っても過言ではない。


「ここにいて」


「下川……?」


不思議そうに声を上げる女を余所に、脇差しを鞘に納めて廊下に出た。客用に用意されている桶と水を手に取ると、畳まれていた手拭いを数枚持って部屋に戻る。


女は意外も、ちゃんとそこにいた。


「これで冷やして。何も無いよりは、きっと良いと思う。ほら、ここに座って」


「何故、こんなことを」


女は言われるがままに座り込むが、とても戸惑っていた。光はその言葉を受けて、「せめて善人の振りをしていたいから」と静かに笑う。


女はしばらく躊躇った後、手拭いに手を伸ばし、上衣の裾から腹を冷やし始めたようだった。やはり痛いのか、時折顔が僅かに歪む。


「……あんたの名前は?」


「教える義理はありません。もう結構」


すっくと立ち上がった女は、痛みを感じさせない立ち振る舞いで部屋を去った。


あっと言う間に姿を消した女に、光はしばらくその場から動けなかった。







それから数週間後、初めての任務を言い渡された。それは、悪徳を働くある豪商の家主を〝片付ける〟こと。


殺さなければならないのか。雪に直接抗議を申し付けることは許されず、光は目的のために言うことを聞く道しか無かった。


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