新撰組のヒミツ 弐
――後は驚くほどに呆気なかった。
豪商の家主が呼吸を止めた瞬間、光は不気味なくらいに落ち着き払っていたのだ。雪に報告した後も、いつも通りに振る舞えた。
「大丈夫か」と心配してくる立花にも何事もなく返す。それからは、数週間おきに舞い込んでくる任務を遂行していく日々。
自分でも不思議だった。もっと心がざわめくかと思ったのだ。だが、直ぐに理解した。矢武鹿助を超える死は無いのだ、と。
どうやら、いよいよ善人ではないらしい。
確かに、自己嫌悪はあった。人を殺めたという逃れられない苦悩。先生さえ生きていたら、と悲観的になったことも少なくない。
だが光はそれでも任務を受け続けた。必ず「矢武鹿助を知っているか」と標的に問い、首を振るのを確認してから刀を振り下ろす。
「雪様、例の仇の情報は如何でしょうか。あれから何か進展はございましたか」
「まだありません。貴方は不服かしら」
「いいえ、まさか。ですが、このままでは師が不憫でございます。一刻も早く仇を討ちたい気持ちをどうかお察し下さい」
機嫌を損ねないようにと必死だった。割とプライドが高い光だが、頭を地面に擦り付けた。顔には、最早取れなくなった愛想笑いの仮面。
雪は下品な行いを嫌う。光は、言葉遣いから何まで改めざるを得なかった。
綺麗な服を心掛け、上品で堂々とした態度を取りつつも、周りから見れば愚かとしか思えないほどの従順な気持ちを全面に押し出す。
雪は光を気に入っていたようだった。周りからもお気に入りと見られ、話しかけてくると言えば、立花くらいのもの。
「師の仇さえ取れれば、貴方はここから居なくなるのですか?」
「それは分かりません」
「そう……」
小さく呟いた雪を見上げ、光は小さく首を傾げた。仇さえ。軽視しているようも聞こえ、光は軽く眉を寄せた。そんな些細な言葉の端が気になる。
「裏切りは許さないわ」
「勿論で御座います」
毎度のごとく確認のように言う雪に、光は慌てて表情を柔らかいものに戻した。丁寧を通り越し、慇懃とさえ感じる言葉遣いを以て頭を下げる。