新撰組のヒミツ 弐
にこやかに笑って頷きながらも、光は人知れず心に呟いていた。


――駄目だ。雪様は私を便利な刀としか見ていない。真剣に情報を探そうとはしていないのが丸わかりだ。武器が減るのがそんなに恐ろしいのか……。


「下川」


退出すると、直ぐに声を掛けられた。声につられて振り返ると、そこには相も変わらず笠を被った立花がこちらを見ていた。


「どうした」

「お前に話がある。付いて来い」


訳も分からないまま、強引に腕を引かれて連れて行かれたのは、人気がない竹林であった。道が開かれていない場所である上、太陽の光が射し込まず、鬱蒼としている。


「下川、この頃の任務が多すぎるぞ。それも全て危険なものだ。任務は選んだ方がいい」


「私が雪様に頼んでいる。お前にわざわざ口出しされる覚えはない。そんな下らない話なら私は帰る」


硬い声音で言い捨てると、立花は「違う」と首を振ったようだった。笠が邪魔らしく、立花は鬱陶しそうに笠を外す。


黙っていれば整っている顔だが――。
「いつも言うが、その髭を剃れ。この髭達磨が。見苦しいぞ」


「まあ、そう言うな。知らない内に生えてくるものは仕方無いだろう。お前こそ女ならその無骨な言葉遣いを直せ」


――面と向かって言ったことは無いが、立花とは友と呼べる存在になっていた。お互いの秘密を共有し、共に切磋琢磨し、時に励ますような間柄である。


「とにかく、仕事に口出しするつもりは無い。むしろ、お前を応援している。だが――やりすぎは禁物だ。これからも続けられなくなるぞ」


「……分かってる」


「お前の『分かってる』は信用出来ない」


わしゃわしゃと立花に髪を撫でられた光は、「触るな」と手を跳ね除け、彼を軽く睨むが、堪えた様子も無い。


「なあ、下川」


どことなく、奴の声音は思い詰めた声音だった。立花には似つかわしくない程の真剣さがあり、光は顔を上げた。


「お前が主の部屋から出て来たとき、お前は消えそうな気がした。俺は……気付いたら声を掛けていた。

いや、むしろ掛けるべきだとさえ思った。きっと、お前は居なくなるつもりだと」


「……」


「……どうやら俺の気のせいらしいな。悪かった」


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