新撰組のヒミツ 弐
「……どいつもこいつも居なくなるなしか言わないな。そんなに私に消えてほしくないなら、紐に繋いでどこかに括り付けておけばいいじゃないか」
光は一つ深呼吸をして、高ぶっていた気分を静かに落ち着かせる。
「……雪様は先生のことを調べて下さらないし、私は先生の為に何も出来ていない。これでは一体何の為にここに来たのか分からない」
「確かにお調べになっている節は無いな」
顎に手を当て、過去の記憶を振り返るように斜め上を見上げる立花。彼の同意を得た光は大きく頷いて俯いた。
「私は良いように使われている刀だ。死なない程度に飼われている……先生の仇を討つまでは、この首輪は外れない。
私は二年前から飼い殺しにされてるんだ!」
叫び声が林に響き渡る。肌が痛いほどの静寂を破ったのは、「それでもお前は仇を討つんだろう?」という立花の静かな言葉だった。
「当たり前だ」
仇討ちこそが光の生きる目的。鹿助がいなければ、光は野垂れ死んでいたのだ。尊敬し、敬愛し、感謝してもしきれない彼を殺した者を、どうして許すことができるだろうか。
光の決意に満ち、復讐の炎が燃え上がる目を目を見た立花は、「俺はお前に仇を討って欲しい」と言った。
彼はいつも光のすることに反対しない。文句は付けるが、最終的には光の意見が通る。ふと、それはどうしてかと疑問に思ったのに気付いたのか。
「何も余計なことを考えずに済むだろう」
表情の読めない顔でそう言った立花は、光の目に視線を合わせると静かに笑った。光はその笑みの意味が分からず、眉間に皺を寄せて視線を外す。
「──お前に頼まれなくても仇は取る。その日が来るまでは働く」
「それは頼もしいことだ」
「立花」
被せるように奴の名前を呼べば、驚愕に目を見開く立花。何がそんなに驚いたのか──光は一瞬だけ疑問を抱くが、直ぐにそんなことはどうでもいいと忘れ去った。
強い覚悟を以てして、光は言う。
「従順な飼い犬だって、稀に飼い主の手を噛むことだってある。餌をくれない飼い主には、どうやったって懐かないんだよ」
「……飼い主の、手を?」
眉を寄せる立花は訝しげに問う。
彼がその言葉に含まれた真の意味を悟る前に、小さく笑った光は「深く考えるな。ただの例えだよ」と言って流した。
立花は何か引っかかったように、険しい目を光に向ける。
だが、光はそんな様子の立花を気にかけることなく、再び彼に背中を向けると、足早に雑木林を抜け出ていった。