新撰組のヒミツ 弐
屋敷に戻った光は、すぐさま雪からの呼び出しを受けた。
その旨を通達してきたのは、雪の側仕えだという例の小柄で華奢な女だ。無表情で告げた彼女は、用は済んだとばかりにどこかへ行ってしまう。
嘆息を吐いた光は、周りから多数の視線を感じていた。我らが絶対的な主から信頼を寄せられる者に対し、僅かに畏敬や嫉妬の念が込められているようにも思える。
「…………」
無言の圧力というものだろうか。光が視線を向けると、彼らは視線を合わせないようにと直ぐに目を逸らしてしまった。
元々、他人とは関わりが薄い光だが、この場所に来てますます人間関係の幅が縮んでいった。
だが、必ずしも悪いことばかりではない。対照的に、一人ひとりの関係はより深くなり、狭く深いものとなっていった。
例の装飾過多の扉を開けると、雪が傲然と座椅子に腰掛けてこちらを見つめている。そして、その綺麗な瞳には、いつにも増して思いつめたような色が窺えた。
「下川」
「はい」
即座に返事をして跪くと、雪は平淡な口振りで「どこに行っていたの」と言い放つ。
光は何かよく分からない反発心を覚えながらも、背筋をしっかりと正して言った。
「申し訳ありません。先程まで立花と少々話をしておりました。何かご用でしょうか」
「いいえ。……立花とお話をしていたのね」
「お雪様」
またもや間髪を入れずに言葉を発すると、光は断りもなく立ち上がり、真っ直ぐに雪の目を見つめた。
例に無い光の反抗的な行動に対し、彼女は微かに動揺して瞳を揺らめかせる。
「最初に申し上げた通り、私は師の仇を探す為、貴女様に膝を折りました。……しかしながら状況は何ら変わらず、今日まで、至極もどかしい日々を過ごして参りました」
「……何を仰りたいの」
表情を険しくした雪を見下ろした光は、美しく整った雪の顔を凝視し、淡々と言い放った。光は怒りを押し殺し、柔らかな笑みを浮かべてみせる。
――今更、何の痛痒を感じようか。
「私は仇を探さねばなりません。仇を探さなくては、生きられないのです。貴女様は何か行動を起こされましたか。そういう契約であったはずです」