新撰組のヒミツ 弐

騒動の前兆






夜が明けた。


――何か嫌な夢を見た気がする。


内容はろくに覚えていないというのに、何故かとても嫌な恐ろしい夢だという感覚だけは、はっきりと覚えている。


自然に目が覚め、自分の布団を畳んでいた光は、隣の布団には山崎の姿が無いことに気付いた。


山崎には何か朝から任務があったのかもしれない。そうは思うのだが、姿が見えない山崎を思うと、何やら胸が締め付けられた。


ぐちゃぐちゃで、すっきりしない頭を抱えながら、光は部屋を簡単に片付けて身支度を整え、朝餉を取りに広間に向かう。


「おはよう」

「おはようございます、永倉さん。一さん。あ、総司も」


いつものように笑顔を浮かべ、お互いに挨拶をする中、沖田だけが「僕はついでですか」とむっとしたような表情を浮かべた。


「まさか。あんたにも言ったつもりだ」

「そうですか? あれ、山崎さんは?」

「知らない」


頭を振ってため息を吐くと、監察方の席に座った。無論、隣の席は空いている。吉村も居なかったが、島田は居た。


膳が並び始め、近藤の「それでは、頂きます」という号令が掛かると、光は淡泊だが美味な朝餉をゆっくりと食していった。


土方は機嫌が悪いようだった。


それを居心地悪そうにちらりと窺うのは、原田と藤堂。そして気遣わしげなのが山南。


その無言の圧力に誰もが屈し、口を開けなかった。


光は土方の不機嫌の原因に思い当たることがある。自分だ。巡察で勝手な行動を取った自分の責だろう、と。


案の定、朝餉が終わって隊務が発表された後、「井岡。お前は来い」と、地を這うような恐ろしい声で呼び出しを受けることとなった。


――ご愁傷様です。


そんな憐憫を含んだ島田の目を受けた光は、内心で大きく息を吐きながら土方の背中を追う。


流石に笑みを浮かべる余裕は無かった。


< 51 / 102 >

この作品をシェア

pagetop