新撰組のヒミツ 弐
――早速、背中が凍りついた。
「俺はお前がやれると思ったから巡察に出したが――組長の言うことを聞けねえ奴は巡察に出る資格はねえ」
廊下に出て、ダンと音がするほど背中を壁に押し付けられた光。土方の静かな怒りを間近で感じ取り、光は言葉が出なかった。
抵抗すれば、土方の拘束から逃れることが出来るだろう。鍛えた力を以てすれば、それは簡単なのだ。
だが、光は土方に抵抗する気は全くない。
「おい、分かってるのか」
土方が拳を握り締めたのを見ても、光は身動き一つしない。僅かに身を堅くし、反射的に瞼を閉じただけであった。
パチン、と掌が光の頬を軽く打つ。拳で殴られるかと思いきや、頬を叩かれたのみ。
――全く痛くなどなかった。
ゆっくりと目を開けて見上げると、土方は怒りか、あるいは悔しさ故か――様々な感情が入り乱れた表情になっていた。
「……分かっています。確かに、昨夜は私の落ち度が原因で隊を乱してしまいました。本当に申し訳ありません」
脳裏に立花の姿が甦る。
憎たらしい、あの男。
万が一、あの男が光に本気を出していれば、光は為す術なく死体として路傍に転がっていただろう。まるで、石のように。
「お前を隊士にしようかと思ったが……監察方も色々と忙しいからな。巡察はもういい。お前は暫く指南と任務に専念しろ」
光は悔しさに唇を噛みしめた。
一瞬、立花の顔が脳裏を過ぎる。
光が巡察に出なくなれば、むしろ奴と――それが偶然のものにしろ――顔を合わせることは、殆ど無くなるに違いない。
確かに過去を捨てたと同時に過去の仲間をも捨てた。おまけに今や奴は、新撰組である自分と敵対する長人である。
……だが、本当にそれでいいのだろうか。
「――とにかく、任務以外での独断行動はするな。いいな、絶対だぞ。新撰組は組織だ。和を乱す行動を取られると困るんだよ」
「はい。心致します」
「よし」