新撰組のヒミツ 弐
まるで胸に重石が乗ったようだった。
俯く光を一瞥した土方は、「気を張ってけよ」と励ますように言い放ち、何か用事があるのだろう、足早にどこかへ行ってしまう。
(何で上手く行かないんだろう……)
思わず廊下で棒立ちになりる光は、歯噛みして苛立ちを抑えた。自分の情けなさと間の悪さに怒りさえ覚える。
俯きながら、光は道場へ向かった。行こうと思って向かった訳ではなく、ふらふらと歩いた結果、辿り着いたらしい。
我先にと指導を頼んでくる隊士たちを見て、身が震えた。無意識の内に、自分が教える資格は無いと感じたのかもしれない。
稽古が終わって次々と隊士たちが退出していく中、最終的に空になった道場で、光はようやく長いため息を吐いた。
強くならなければ、守りたいものも守れないのだ。光は力不足を痛感していた。
(あいつに――立花に負けたくない)
今や敵になってしまった立花。友人だった頃は遠い夢の話だ。いや――光が彼の前から去って裏切った〝敵〟になったのだ。
光は徐に床に膝を付くと、四つん這いになって腕に力を入れた。一回、二回……久しぶりの腕立て伏せであった。
三十回を過ぎた辺りで腕に力が入らなくなり、力無くうつ伏せに崩れ落ちる。息も激しく乱れて全身が脱力していた。
(……強いなんて、勘違いも甚だしい。この程度で疲れていたら、太刀なんか持って戦える筈がない)
再沸騰した苛立ちに任せ、握りしめた拳を思い切り床に叩きつけた。
(絶対に、負けない)
ただ、今までと違うのは、悲観的に物事を考えて終わるのではなく、それを力に変えて諦めないと思う心が湧き上がったことであった。
守りたいものを守るために。