新撰組のヒミツ 弐
「――熱心ですね、先生」
もうお昼ですよ、という控え目に言う声が道場に響いたことで、光はそこで昼になったのだとようやく気付いたのだった。
筋肉痛はまだ無いのだが、全身が倦怠感に襲われ、握力が失われたように上手く力が入らない。
これは怠けていたツケなのだろうか、とため息を吐いた光は、声を掛けてきた人物――安藤に向かって苦い笑みを向けた。
「あまり筋肉が付かない体質なんだ」
「それは……稽古をすれば分かります」
「まあ、そうなんだろうな。……ああ、昼餉だったな。行こう」
自分は身体こそ女なのだから仕方が無いと思い、目をそらし続けていたことは、もはや公然の弱点になっていた。
そのことに動揺はしなかったが、敵と刃を交えることになれば、どうか。素早さで片付けきれない敵とは如何にして戦うか――。
眉間に皺を寄せながら考え始める光。本格的にあれこれ策略を巡らせていると、隣から小さな笑い声が響いてきた。
「先生って、どこか変わりましたね。何というか……前は先生の笑顔が少し怖かったんですが、今はそんな事はなくて」
「……いきなり何を言うかと思えば」
「すみません。でも本当に――」
なおも言葉を重ねようとする安藤の頭を軽く叩いた光は、「錯覚に決まってる」と低く呟くと、叩かれた頭を押さえて、目を白黒させる安藤を置き去りにして先に行く。
まさか、気に障ったか、と安藤は頭を掻いた。もどかしげな溜め息を吐き、薄い背中をした師の元に走る。
広間で昼餉を取った光は、山崎がいないのを詰まらなく思い、早々に部屋へ引きこもろうとしたが、それを目敏く見つけた安藤が許さない。
渋る光を宥める光を、安藤は屯所の外へ連れ出す。どこへ行くのかと問えば、安藤は含んだように笑って答えない。
抵抗することを早々に諦めた光は、安藤の後に素直に従って歩いた。顔面には詰まらないといった表情が露骨に表れていた。