新撰組のヒミツ 弐
道を歩いていく内に人気がある所に出て、いつの間にか安藤と光は街にやってきていた。活気ある人の往来だが、光は思わず眉をひそめる。
一人立ち止まる光は、周囲から注目を浴びていた。安藤が「こっちです」と言って光を促すと、彼女は言われるがままに歩いた。
着いた所は女物の雑貨や小物が売っているところだった。一瞬だけ、安藤の趣味を疑ってしまった自分は悪くないだろう、と光は彼の背中を一瞥した。
「何だ、安藤。女にでも贈るのか」
「はい。贈り物でもしようかと思いまして」
──安藤に恋仲が居たのか。
光は瞠目して驚き、「なんで私を連れてきたんだ」と当初からの疑問をぶつけた。
「先生、女慣れしていそうだったので、こういった物にも詳しそうだな、と」
口笛でも吹きそうな雰囲気で言ってのけた安藤。嘘の情報が広まっているようである。
光は思わず目眩がして、硬く目を瞑って思い溜め息を吐いた。
「私にどうしろって言うんだ」
「一緒に選んで下さい」
「こういうものは、他人に選んでもらうものじゃない。自分が相手を想って選ぶことに意味があるんだろ」
世間一般論を述べれば、安藤は「成る程。先生、一理ありますね」と大仰に手を打ち、大きく頷いて明るい笑みを浮かべた。
「お前な……」
「まあまあ! 良いじゃないですか」
(良い訳あるか……)
楽しそうに笑いながら何かを選ぶ安藤を見ていると、自分が色々と悩んでいることが、急に馬鹿らしく思われる。
思わず肩の力が抜けた時、安藤とは反対側の方の光の隣に、買い物客であろうか、笠を被った二人の浪士らしき男たちが現れた。
光の方が身長が低いためか、僅かに口元が覗いている。無精ひげをこしらえた、僅かに笑みを浮かべて歪むその口元が──。
口元だけでは、あの男だという確信は持てなかった。他人の空似かもしれない。
だからこそ、後手に回らざるを得なかったのである。
「動くなよ」