新撰組のヒミツ 弐
様々な流派が入り交じり、節操の無さを伺わせる乱走刀華を見た男は鼻で笑う。
──格下に見られ、舐められている。
それをまざまざと感じ取り、光は屈辱に顔を歪めた。それを見た男は嬉しそうに笑むと、刀を抜いて正眼に構える。
この男は、光の嫌がる顔を見ると、途端に機嫌が良くなる生粋の嗜虐趣味の持ち主だ。趣味の悪さを思い出した光は、ますます不機嫌な表情になった。
「主から伝言を預かってきた。だが、弱いお前にそれを聞く資格は無い」
「主……。あの人の話なんか、今更聞きたくないね! お前たちとは、もう金輪際関わるつもりはない! 早く帰れ!」
脅しのつもりで刀を振ると、男は笑みを深め、ゆっくりと近付く。思わず一歩後退するたびに「逃げるなよ」と距離を詰められた。
本格的に危ないと感じた光は、背中を流れる冷たい汗を感じると、心臓がざわめく。じりじりと後ずさりすると、背中に壁が当たって息を呑んだ。
「……お前の探し求めた情報だぞ。
あれだけ主に服従していたのに……一体何がお前をそのように変えた? たかが一つの情報に固執し続けた美しいお前は、一体どこに消えたんだ?」
鈍い輝きを放つ瞳には、時折、絶望を含んだ狂気が顔を出す。光の頬にかさついた手を当てた男は、目を細めて彼女の目尻を撫でた。
その瞬間、光は「触るな」と低い声を漏らす。男は一瞬だけ傷ついたような顔をするが、決して手を退けようとはしなかった。わざとらしい表情に苛立ちが募る。
「触わるなと言っただろ、薄気味悪い」
男の指を手の甲で払いのけた光は、そのまま刀を男に突き出す。だが、男は嘆息を吐くと、余裕そうに白刃を躱したのみだった。
そして、光は手首を鋭く突かれて思わず力が抜けてしまい、短刀を手放してしまう。焦ったのも束の間、男は光の刀の柄を掴み、瞬時に刀を奪い取った。
そのまま、刀は路地の向こうに投げ込まれ、盛大な金属音が辺り一面に響き渡る。
(これは、本当にまずい……!)
武器を失った光は、一瞬で浅葱の隊服を脱ぐと、男に投げつけた。空中で広がった隊服は男の顔に掛かって視界を塞いだようだ。
──格下に見られ、舐められている。
それをまざまざと感じ取り、光は屈辱に顔を歪めた。それを見た男は嬉しそうに笑むと、刀を抜いて正眼に構える。
この男は、光の嫌がる顔を見ると、途端に機嫌が良くなる生粋の嗜虐趣味の持ち主だ。趣味の悪さを思い出した光は、ますます不機嫌な表情になった。
「主から伝言を預かってきた。だが、弱いお前にそれを聞く資格は無い」
「主……。あの人の話なんか、今更聞きたくないね! お前たちとは、もう金輪際関わるつもりはない! 早く帰れ!」
脅しのつもりで刀を振ると、男は笑みを深め、ゆっくりと近付く。思わず一歩後退するたびに「逃げるなよ」と距離を詰められた。
本格的に危ないと感じた光は、背中を流れる冷たい汗を感じると、心臓がざわめく。じりじりと後ずさりすると、背中に壁が当たって息を呑んだ。
「……お前の探し求めた情報だぞ。
あれだけ主に服従していたのに……一体何がお前をそのように変えた? たかが一つの情報に固執し続けた美しいお前は、一体どこに消えたんだ?」
鈍い輝きを放つ瞳には、時折、絶望を含んだ狂気が顔を出す。光の頬にかさついた手を当てた男は、目を細めて彼女の目尻を撫でた。
その瞬間、光は「触るな」と低い声を漏らす。男は一瞬だけ傷ついたような顔をするが、決して手を退けようとはしなかった。わざとらしい表情に苛立ちが募る。
「触わるなと言っただろ、薄気味悪い」
男の指を手の甲で払いのけた光は、そのまま刀を男に突き出す。だが、男は嘆息を吐くと、余裕そうに白刃を躱したのみだった。
そして、光は手首を鋭く突かれて思わず力が抜けてしまい、短刀を手放してしまう。焦ったのも束の間、男は光の刀の柄を掴み、瞬時に刀を奪い取った。
そのまま、刀は路地の向こうに投げ込まれ、盛大な金属音が辺り一面に響き渡る。
(これは、本当にまずい……!)
武器を失った光は、一瞬で浅葱の隊服を脱ぐと、男に投げつけた。空中で広がった隊服は男の顔に掛かって視界を塞いだようだ。