新撰組のヒミツ 弐
「それにしても、『新撰組は裏切れない』か......」
立花が昏(くら)く喉を鳴らして笑う。
「何か言いたいことでも?」
「いや」
光は口元を歪める。言いたいことは分かる。
しかし、遠回しに光を責める言い方に立花の性格の悪さを感じ取り、不快に感じた。
しかし、それはお互い様だった。お互いに言いたいことを押し込めて、酒を飲み交わす。
......そうでもしなければ、お互いの立場が呑気に酒など飲み交わすことを許さないからだ。
さほど酔いもしない内に、光は立花と別れた。外に出ると、夜気が光の火照った体を冷ましていく。
屯所に帰るために通りを歩いていたところ、突然背後から「下川!」と呼び止められた。光をそう呼ぶ人間は限られている。
「......何?」
振り返った先には、やはり奴がいた。
「また......」
「え?」
「また、来い」
言葉を、失った。
光はただ立花を凝視することしか出来なかった。命令らしき言葉とは裏腹に、なぜ立花が懇願するような目をしているのか。
その必死さに光は戸惑う。
友人に告げるように、努めて明るく「ばーか」と笑って言い、踵を返した。