新撰組のヒミツ 弐
第9章.獲得と喪失の道

手がかり

ぱち、ぱちりと薪が爆ぜた。
氷の刀のように刺す寒風が吹き荒ぶ一月の中頃。薄墨の空から雪が降り、景色は白銀に染めあげられていく。


本日非番の光は、朝稽古で隊士たちに指南をした後、薄暗い自室に引きこもっていた。囲炉裏の温もりは気休めだ。冷気が全身を縛り、壁に背中を預けて目を瞑った。

冬は生命(いのち)の気配が失せる。
生命が冬を厭い姿をくらませている。
ただ独り雪原に沈みゆく感覚に恐れをなす。


耳を澄ませば聞こえてくるはずの、隊士らの賑やかな談笑が今は聞こえない。


──信頼する人間が近くにいないことが、こんなにも滅入ることだったとは、と苦笑する。知らぬうちに、頑なであった心は溶けかけていたことに気付いた。


その時突然、両頬に氷の冷たさを感じ、「ひっ」と情けない悲鳴を上げて目を剥いた。目前で待ち人が悪餓鬼の笑みを浮かべ、光の頬を挟んでいる。


今の今まで気配を感じなかった。その手の冷たさのせいで、頰が痺れる。


「……おかえり」


彼──山崎は「ただいま」と眩しく微笑む。その変わらない笑顔に安心を覚える。不覚にも、鼻の奥がつんとした。半月分の抑えていた感情が解き放たれたようだ。





この頃、にわかに任務が忙しくなってきた。
将軍・徳川家茂公の入洛も理由の一つである。新撰組は将軍の入洛道中の警護に同行していた。


同時に市中も以前より騒がしくなってきている。なんでも、京に潜伏している長州の者が活動しているという。近々、何か事件を起こすつもりではなかろうか、と新撰組は警戒を強め、ひたすら情報収集に徹していた。


「何か異変は?」


大きな仕事が終わったばかりというのに、直ぐに京の現状を尋ねる山崎に抜かりはなかった。


「明日の晩、攘夷を掲げる浪士たちが会合を開くらしい。どうも、強い影響力を持つ大物だ。誰を行かせる?」

「大物、ね。せやったら、お前と俺でやる」

「了解。……だけど、少し休むべきじゃないか? 休みもしないで直ぐに次の任務って……」


光は表情を曇らせる。この兄弟子は無理を隠すことが非常に上手いからだ。


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