新撰組のヒミツ 弐
ちらりと古高を見ると、釘を打たれた足から大量の血が流れていた。その釘は錆びているので、見た目以上に傷は深刻だろう。


死んでしまっては元も子もないが、土方はそれを心得ており、死なず、また、気を失わないようにじわりじわりと苦痛を与え続ける。


「言え」
「…………」
「”計画”とやらを言うまで、死ぬ以上の苦しみを与え続ける」


脅しでは無く、本気で言っているのだから土方は恐ろしい。案の定、古高は「待て……待ってくれ」と音を上げた。

しかし、そう言ったきり口を噤む。


容赦せず拷問が再開される。五寸釘に蝋燭が立てられ、火が灯される。気が触れたような声が牢の空気を震わせた。

これぞまさしく、鬼が悪人に罰を与える地獄絵図だ。


古高は哀れなことに意識を失えなかった。理性を危うくも保ったまま、痛みに苦しんでいる。


(鬼副長の名は伊達じゃないってか)


光は鼻の奥を刺激する血の薄い霧に顔をしかめた。


永遠にも思われた拷問は、ようやく終わりを告げた。ついに、古高は口を割ったのだ。


「風の強い日……京に……御所に火、を点け、その混乱に乗じて……帝を長州に、お連れ……申し上げ、る」


「……それは、本当、か」

土方は言葉を詰まらせ、光は険しい目をして古高に向き直った。


ごほっと咳をした古高は、地面に血痰を吐きだし、微かに口角を上げる。


「……全て……誠の話……」
「何てことしやがる……!」

珍しく狼狽する土方は言葉を失ったらしい。


(……立花、いつから性根まで攘夷浪士になったんだ。残念だが、お前のいう計画は私たちが止める……!)


どうやら、かつての友とは決定的に道を違(たが)ってしまった。


「それで、次の会合はいつだ。何処である?」と光は冷淡に問うた。


「……知らぬ」
「知らないだと」


そんな訳があるか、と光は苛立ちを露わにした。今の光には問答を続ける余裕は無い。足に刺さったままの五寸釘をゆっくり深くまで刺し込んだ。


尋問する相手が鬼から細身の優男に変わったからといって嘗めてもらっては困る。


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