新撰組のヒミツ 弐
「やめろ……! ほ、本当に、知らぬのだ!場所も……知らぬ! 会合が、会合があるとすれば……い、いつも使っている四国屋か……あるいは池田屋に違いない……!」


(……池田屋、か)


光は思わず釘を押し込むのをやめた。
それを聞いた土方は、ようやく頭の中を整理できたようで、足早に牢から出て行った。


残された光は、上司が遠ざかったのを確認し、古高に顔を寄せる。


「そのまま聞け」


古高はその囁きを聞き取り、力なく閉じていた瞼をうっすらと開いた。


散々痛めつけられ、誇りを踏み躙られたとはいえ、その眼光の光は失われていない。


再度周囲を確認し、誰もいないことを確認した光は、平坦な声音で彼に問う。


「何故お前たちは、そのような計画を立てた。何が目的だ」

「何故、だと」


今まで衰弱していた様子が嘘のように、眦を吊り上げ、声を荒げた。


「誰よりも、俺たちがこの国の行く先を、憂えているからだ……!!」


息が荒い。古高はまるで空気を求める魚のように口を開けていたが、同時に咳き込み、とても苦しそうに床でのたうち回る。落ち着かせなければ本当に死にそうだ。


「だからといって、京に火を着けていいという理由にはならない」


「……お前のような若造には、分かるまい……! 本気でこの国を救いたいと思うならば、必要な犠牲もあるのだということを!」


またもや古高は叫び、光を睨んだ。何故か、急に興醒めした気持ちになる。


もっと、穏便に事を進めてほしいものだ。武力で国家転覆など悪夢である。


とはいえ、立場が変われば、彼らは国を憂う志士だ。変化と戦を厭い、外国に歩み寄る幕府を打ち倒し、この国を食い物にしようとする夷狄を追い出す。


──立派な志だが、認められない。


「私は死に掛けた敵と、仲良く議論を交わす趣味はない。さあ、ここからが本題だ。私の質問にだけ答えてもらう」


(ああ──昔に戻ったみたいだ)


これは、師の残像をがむしゃらに追い求めていた頃の死の問い。


光はふっと笑い、短刀の真白に輝く刃をあらわし、その怯える首筋に突き付けた。







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