新撰組のヒミツ 弐
光は辺りに注意しながら拷問部屋を出た。今、誰かに鉢合わせして「何をしている?」と問われれば何も答えられないが、幸運にも誰にも遭遇せずに戻ることができた。


一安心していると、その背中に「光、土方副長がお呼びだ」という斎藤の声が掛かった。


斎藤の背中に続いて歩き出す間、光は眉をひそめた。


──古高にちょっかいを出したのがバレたか。いや、確かに誰もいなかった。それに、もう古高に尋問する必要は無いはずだ。では、一体……?


答えが出ないまま、土方の部屋に着いてしまった。


「副長、連れて参りました」

「ああ、入れ」


部屋の中には近藤と土方、山南に何名か隊長もいた。各々、表情が固い。そうそうたる面々を見た光はいい予感がしなかったが、山南の仏の微笑みに少し気分が落ち着く。


「攘夷浪士たちが動いた。どうやら、古高を奪い返す算段をつけている。俺たちは会津藩と協力し、奴らの企てを潰すことにした。
 以前、調べさせた浪士らの拠点によると、四国屋の方が多く利用されている。今晩も、四国屋の方に隊士を多く割きたい」


土方の口から重々しく紡がれた言葉は意外なものだった。


「だが、万が一を考え、池田屋は近藤さん、総司、永倉、藤堂の精鋭でいく。そこで、井岡。お前も池田屋に加わってほしい」

「……分かりました」

「井岡君、よろしく頼む」
永倉が信頼を含んだ視線を寄越した。

「はい、よろしくお願いします、永倉さん」


──不敵な笑みを保った自分を褒めてやりたい気分だ。


(これはハズレを引いてしまったかな……)


後世に伝わる池田屋事件。詳細までは認識していなかった光は、まさか歴史上の事件に自分が関わることになるとは夢にも思っていなかったのだった。






光は自分の振る舞い方に悩んでいた。


自室に引き返すと、一人部屋の中をうろつく。じっとしていられなかったが、光は案外冷静に考えを巡らしていた。


(池田屋──遂にこの日が来たか。確か、死人やけが人が出たはず……。だが、詳しい部分の記憶が曖昧だ)


あそこで、「池田屋が正解だ」と言えばよかったのだろうか。そうすれば、池田屋により多くの人員を割き、犠牲を抑えることができるのかもしれない。



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