新撰組のヒミツ 弐
路地を出ると、どうやら光を捜索していたらしい原田たちが、光を認めると同時に声を上げて駆け寄ってきた。
「どこに行ってやがった!」
怒り心頭、と言わんばかりに振り上げた拳が光の頭に落ちる。あまりの痛さに声を上げそうになるが、ここは男として情けないことは出来ないと思い、必死に耐えた。
「……も、申し訳ありません」
「心配するだろうが! お前は巡察をあまりしていないそうだが……組長の許可無く勝手な行動はするんじゃねえ!
怪我は!? あいつは逃げたのか!?」
力の入った手で肩を掴まれ、原田は険しい顔で光を揺する。力の限り揺すられる光は、思わず原田の手を振り払い、口元を押さえた。
内心で目の前の男に悲鳴を上げると、光は目に浮かんだ生理的な涙を乾かす。肩でしていた息を整えると、光は悄然と眉を下げる。
「怪我はありません。追跡したのですが……見失ってしまいました。身勝手な行動、本当に申し訳ありません!」
「……頭を上げろ。怪我が無かったから良かったが、後ろ傷を負っていたら、お前は士道不覚悟と言われても仕方無かった。
お前みたいに強い奴でも、巡察は組長に従うのが決まりだろ? これは土方さんに報告するからな」
いつにも増して厳しい口調で言う原田。光も、組織を乱した自分には当たり前の処分だと思ったため、「はい」と頷く。
幾分か原田の表情が和らぐが、光の出てきた路地を睨み、その野性的で鋭い眼をそのまま光に向けた。この時ばかりは、原田に恐れを抱いた光。
「帰るぞ」
「……はい」
隊士たちの複雑そうな表情が、光の背中に突き刺さる。この中には光を慕う隊士もいるのだ。しかし、光の勝手な行動が悪いということも知っていた。
一同は思い思いの感情を抱き、屯所への暗い道を無言で歩く。足元を照らす提灯の光が不安定に揺らめくのを、彼らはただ視線を落として見つめていた。