小さな物語
 私はそんな結論に至り、考える事を放棄した。

「これからどうしようかなー…」
 今はこれからの事を考えるのに専念しよう。
顎に手をあて、うーん、と唸る。

どうすればいいものか。
衣食住についての不安があるし、まずここが何処だかもわからない。
人の気配も感じない。

今度は不安が渦を巻いた。
結局は悩み苦しむ運命なのだろうか。

はあ、とひとつ溜め息を吐いた。

「――っ!!?」

 その時、胸に痛みが走った。
先程ぶつけた頭の痛みとは比べ物にならない位強い痛みに、声にならない悲鳴をあげた。

 立っていられなくなり、地面に倒れた。

痛い。痛い。

何なのだろうこの痛みは。
目の前がチカチカする。
目すら開けていられない。

「…あ…う…!」

息をすることもできない。
まるで呼吸をするという機能を身体が忘れてしまったかのようだ。

固く、目をつぶった。
痛みから逃れるように。
「…あ…れ…?」

 覚えがある。
いつだったか、そんな事をした。
必死に。
痛みから逃れるために。
そうだ、確かいつかもこんな痛みを感じていた。 声すら出せずに、涙すら流せずに、もがいていた。
あれは、いつだっただろうか。


ああ、そうだ。

あの日。
私が赤に染まったあの日。
私は埃臭い部屋で苦しんでいた。

その時もこんな痛みを感じた。
胸を引き裂かれる痛みを嫌という程感じた。

思いだして吐き気がした。
気持ち悪い。

「か…は…」

また土が口の中に入った。
先程とは違い、吐き出す気力はなく、私は咳込む。
益々苦しくなった。

ああまた死んでしまうのだろうか。

…嫌だ。
もうあんな痛いのは嫌だ。

「た…す…け…」

誰か。
もう誰でもいいから。

―カサッ――

微かに、音がした。
私は敏感にその音を聞き取った。
同時に、気配。
人の、気配だと確信を持てた。

「ねが…た…す…」

力を振り絞って出した声は言葉になっていなかった。
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