香り
香り
それはすぐ。
すぐに襲われた甘いヤマイ[病]。


石鹸の匂い?みたいなサラッとした肌の香りと、彼の大好きなタバコの香りと、アロマのような鼻を刺激しない優しい香り(突き詰めて見れば、それは入れ過ぎた洗剤の香りだったんだけれども。)が全部混ざって彼を纏うから・・・、もっと嗅いでいたいって思うのは、少しだけ危ない趣味なのかな。



中途採用で入社した会社で、パソコンのセットアップをしてくれたのが彼だった。


2人で1台のPCを囲めば自然と距離は近付いてしまうもので、座ってる私の後ろから覆い被さるようにマウスへ手を伸ばした彼に、背中全体が心臓になっちゃったんじゃないかって程、ドキドキしたのを思い出す。

その時だったかな、彼の香りが気になってしょうがなくなっちゃったのは。

暫く経って、私達が付き合う事になっても、
静まると思っていたヤマイは、治らなかったんだ。


「・・・っ!!!」

「どした?」って、隣で寝ていた彼が浅い息を繰り返す私を覗き込む。

「こ、怖い夢見た・・・。」

「どんな?」

「・・・私以外の人と、どっか行っちゃう夢、です。」

彼のTシャツを無意識に握る。それさえもまだ躊躇ってしまう程、ショックだった夢。涙はどばどば出て来るし全然落ち着かないから、彼の首筋に顔を埋めた。

彼の香りが、ゆっくりと私を溶き解していく。
大きく吸い込めば、身体が、ひたっと悦びを取り戻す。

「俺のコト、好き?」

藍色の夜に浮かぶ、彼の真顔。

「・・・?はい。」

とっても。とは恥ずかしくてまだ、言えない。

「俺もだよ。でも、」

で、も?

「お前に対して・・・、そんな言葉じゃ、気持ちが納得しないんだ。」

私の手首を捕まえて、そっとそこへ唇を落とす。
そのまま、すん、と肌の匂いを嗅いで、ひとつぺろりと舌を這わせた。

「・・・あ。」

「好きとか愛してるとか、もう、そんな簡単じゃない。」

彼の想いが、深く深く身体に沁み込む。
切なくて、甘くて、どこかもどかしげ。

「俺がどんなに夢中か、解らせるにはどうしようか。」

ベッドに投げ出されていた彼の足が、ゆっくりと私の腰に絡められる。
そのまま横たえていた身体は倒されて、彼が私の上に、跨った。
高い位置から、豪快に身につけていたTシャツを脱ぎ落として彼は言う。


「どう、しようか。」


夜が、潤んだ。
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