しろくろ
「………楓?」
呆然とした煉耶が名前を読んでみるが、当然のように返事はない。
楓の気配が完璧に消えていた。
だが、聞き間違える筈がない。あれは確かに楓の悲鳴だった。
そしてここにあるのは、確かに楓の使っていた鍋だ。
「……訳わかんねぇ」
煉耶の声は、ポチャン と跳ねた魚の音にかきけされた。
煉耶が何をしていいか分からず立ち尽くしていると、呑気な笑い声が聞こえてきた。
こんな時によくも、と思うが怒る気にもならないで突っ立ったままの煉耶にルクスは、笑顔で声をかける。
「煉耶さん、どおしたんですかぁ?
ボ―ッとして、煉耶さんらしくないですよ?」
場違いな程の陽気な声が煉耶を逆なでする
「うるせえ!!!
お前も楓の声が聞こえてたんだろ!!なのに!!」
「楓さん?楓さんなら後ろにいますよ??」
「は?」
思わず間抜けな声が口をつく。今何てったこいつは。
「楓さ――ん!!
煉耶さんいましたよ!」