Once again…

「嫌だけど仕事だし…。それに自分をしっかり持っていれば平気よ…」
 そう自分に言い聞かせる。
元彼だとしても、それは仕事には関係ない。
私は私で、仕事に集中すればいいだけよ・・・。


 ひっきりなしに入電する受注や問い合わせをこなし、あと数分で昼休憩に入るという頃。
「藤森さん、ちょっといい?」
 記入していた伝票から顔を上げ、振り返る。
「はい…小栗さん…」
 そこにいたのはにこやかに笑みを浮かべる小栗修平という、頭の中から消し去りたい人。
「もう部長から聞いたよね?これから俺のサポートを頼むから。早速打ち合わせしたいんだけどいいかな。あー、昼食いながらでもいいよね」
「…申し訳ありませんが、私はお弁当なので…」
「あー! それ、あたしに頂戴! お昼代払うから! いつも美味しそうだなって思ってたのよ!」


「斎須(さいす)さん…」
 同じ班の斎須さんは、私よりずっと年上だしベテランの、所謂『お局様』だ。
でも仕事には厳しいが、凄く世話焼きタイプの女性だった。
「小栗君、あとで請求してね。ああ、でも藤森さんの分だけよ」
「大丈夫ですよ、女史。藤森さんにはお近付きの印に奢るつもりですから」
「あらそう? じゃあ出-さないっ!」
「え、だめです。ちゃんと私に請求していただかないと…」
「藤森―、固い! 固すぎるからー。」
「大丈夫ですよ、女史。俺が出させるわけないでしょ?」
「それもそうねー。じゃ、藤森。お弁当を寄越しなさい。あたしが食べつくしてあげる」
 両手を前に差し出されては渡さないわけにも行かず、渋々ながら自分の弁当をバッグから出すと手渡す。
それとともに、休憩のチャイムが鳴った。
「ちょうど休憩になったわね。藤森、行って来なさい」
「…はい…」
 仕方なく頷き、彼の方を見上げる。
そこには真剣な眼差しを私に向けて、私が立ち上がるのを待っている彼がいた。


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