Once again…
ビジネスランチもどき
いつも営業の人が行く店は、社屋から3分ほどの洋食屋。
でも今日はあえてそこは選ばずに、車で10分程度離れたところにあるカフェに向かった。
そこは出社時の最寄り駅に近くて、極たまに立ち寄ったりもしている店だった。
一番奥まった席が1つ空いていて、私たちはそこに案内された。
「まずは仕事の話な。とりあえず安井さんのところ以外に4社、関わってもらうことになったから。割と加工も多いとこばっかりだから、そこは注意して。これは今までの発注傾向を纏めておいたから、目を通しておいて」
そこまで言うと彼は結構分厚い印刷物を寄越した。
パラパラとめくってみると、結構細かく記載され、そしてかなり厄介な加工物が多かった。
「…新人の私で大丈夫でしょうか…」
「俺もフォローするし、初めはアシスタント的なところからやってもらうから大丈夫だ。分からない事があったら、何時でも連絡してくれて構わないから」
そう言って配布されている携帯の番号が書かれた名刺を1枚、私に向かって差し出した。
「それからこのE社は、いつも発注を受けているドアハンドルとかだけじゃなくて、クローゼットとかも一緒に発注してくるから。普段はあまりチェックする機会がないかもしれないけど、部署を跨いでは注してると混乱するから、ここだけは一人で担当してもらうから。悪いけど、早急にクローゼットの勉強もして欲しい」
「…クローゼット…」
「大丈夫。そんなに難しい事じゃない。俺がきっちり教えるし」
「……」
「心配?」
「そりゃ、勿論…。だって私、入社してまだ半年経ってないんですから…」
「大丈夫だろ、部長も綾子なら出来るって言ってたぞ?」
「…やめてください…」
「何が?」
「名前…」
簡単に名前を呼び捨てにする彼を前に、私は動揺を隠し切れていなかった。
せっかく注文したアボカドバーガーが、喉を通っていかない。
「…で、ここからが本題。俺は、諦めるつもりはないから」
「…私は無理です…」
「俺の事、ただの一度も思い出す事はなかった? 俺は誰といたって、この人が綾子だったらってずっと思ってたよ」
「……」
「10年は確かに短くはない。でもどうしても綾子を…どうしてももう一度傍に置きたいってずっと思ってたよ。連絡も取れない、ましてまた巡り合えたと思ったら、いつの間にか結婚までしててさ。それでも…どうしても諦められなかった」