Once again…
「…でも…」
「よくよく聞いたら、離婚調停中だって聞いた。だったら絶対に諦めないよ。俺は10年前も今も、気持ちは変わってないんだからな」
「私は…離婚したって息子を守っていかないといけないの。恋愛にかまけている時間なんてないわ」
「ご主人に気持ちが残ってるとでもいうのか?」
「それはありえないわ。でもね、彼は女を作って家を出たの。私は彼と同じことはしたくない。それに、そうしてしまった場合の、息子の気持ちが心配だもの…。やっぱり私には無理よ」
「一緒に支えていこうとは考えてもくれないのか?」
「どっちにしても…私は、今は仕事と息子の事だけで精一杯なの」
「綾子、どうしても無理だって言うなら、俺の目を見て断われよ」
 ずっと俯いたままだという事に、私自身気付いていなかった。
顔を上げて彼の目を見ると、まっすぐに私を見る視線に怖気づいてしまう。
そしてまた、俯いてしまって結局何も言えなくなってしまう。
「…出来ないなら、俺にもチャンスはあるってことだからな。絶対に諦めないよ」
「もうやめて…」
「うん、今日はもう時間もないしやめとく。さっきの名刺の裏に、プライベート用の携帯番号とメアドが書いてあるから…。ああ、そうだ。分からない事を聞いてくるとき用に、綾子の連絡先を教えておいてくれ」
 営業は仕事用に各自1台ずつ、会社から携帯が支給されている。
でも私たち資材の社員は、営業に出る事はまずないので支給品はない。
となると、私はプライベート用の携帯を教えることになる。
けれど…どうしてもクローゼットの事など、連絡する必要がありそうで。
仕方なく私は、コースターの裏に番号とメアドを書いて、彼のほうに押し出した。

 休憩時間が終わる少し前に、私たちは社屋に戻った。
そしてお互いの部署に戻る。
受付を通り階段とエレベーターに別れた時、受付周辺にいた女子社員の目が冷たく私を見ていることに気が付いていた。
ああ、彼はやっぱりもててるのかもしれないな…そう感じた。
だったら、私は…離婚が成立しても彼の気持ちに応えてはいけない。
彼ならもっと似合いの女性がいるはずだから。
私は仕事での関係以外は結ばない、そう決めていた。

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