Once again…
「おまたせしました、TAJIMA資材部 藤森です」
残業しているのは男性社員ばかり。
そうなると、なかなか電話には出てもらえなくなる。
この時間帯は、たまった伝票処理をする人が多いのだ。
かかってきた電話を取ると、受話器の向こう側からは大木部長の声がした。
「藤森さん? まだいらしたんですか?」
「部長…お疲れ様です。 息子は19時まで学童にお願いできたので…。午後潰れてしまった分、受注伝票もたまっていましたし…」
「そうでしたか。でも無理はいけませんよ? 時間が来たらあがってくださって構いません」
「はい、ありがとうございます。間に合うように退社させていただきますので」
「はい、分かりました。それで今日の件ですが、納品はぎりぎり何とかなりましたよ」
「そうでしたか。ありがとうございます。助かりました」
「いえいえ、これは藤森さんのせいではないですよ。今後またこういった事態が起こったら、すぐに知らせてください。社を上げて、原因解明させますので」
「はい。ありがとうございます」
「ああ、まだ係長はそこに? 替わっていただきたいのですが」
「はい、少々お待ちください。係長、1番 大木部長です」
保留を押し、係長に声をかけると、了解…と片手を上げながら受話器を上げた。
そこから黙々と伝票を書き込み、時間ぎりぎりまで残業をこなす。
18時半を少し回ったところで、業務を終了し退社した。
「ごめんね、翔太。遅くなっちゃって。お腹すいたよね?」
「うん、ぺこぺこだよー」
「じゃあ、今日は特別に、食べて帰ろうか」
「ほんと? じゃあ、僕お好み焼きがいい!!」
「うん、分かった。そうしよっか」
「やったー!」
ランドセルを背負ったままはしゃぐ翔太を見つめ、少しだけ不憫に思う。
父親の愛情を受けることなく、それでも素直にまっすぐ育ってくれている。
でも愛情をもっと与えてくれる人が、いつかは必要になるのだろうか…。
わけ隔てなく、この子を愛してくれる人がいるのだろうか…。
もしいなくたって、私がその分愛情をそそぐつもりではいる。
でも、それでも…。
進行が見られない調停の事が、微かに頭をよぎる。
でも私は、こんなところで足踏みをしている場合じゃない。
嬉しそうに、自宅近くのお好み焼き店の暖簾をくぐっていく翔太。
その後を追いかけ、私も暖簾をくぐる。
思い悩んだ顔を見せている場合じゃない、今は翔太と美味しいお好み焼きを食べよう…。
少し込み合った店内に入り記名すると、翔太と並んで座って順番を待った。