Once again…
「翔太、今度俺とサッカーやろうか」
「え? やった事あるの?」
「あったりまえだろう? 俺は小学校から大学まで、ずーっとサッカーやってたんだぞ?」
「すっげー! じゃあ、いっぱい教えてくれる?」
「ああ、いいぞ?」
「やったぁ! サッカークラブじゃ、まだ遊びみたいなことしか出来ないからさ、僕物足りないんだよー」
「じゃ、目一杯しごいてやるよ」
「それはやだ」
「ああん? 腑抜けたこと、言ってるなよ?」
「僕、まだ子供だもん」
「おい、藤森さんよ。どんだけひ弱にするんだ?」
「別にひ弱じゃありませんけど?」
「サッカーですか…。そういえば、Jリーグのチケットを三枚貰ったんですが。藤森さんと小栗君、翔太君を連れて行ってきたらいかがですか?」
そう言うと、部長はバッグの中を漁りだした。
「ああ、あったあった。来月の試合ですね」
「わぁ! 僕行きたい!」
「じゃあ、翔太君どうぞ。お母さんと小栗君に連れて行ってもらいなさい」
「ありがとうございます!」
「部長…すみません。でもよろしかったんですか?」
「ええ、うちは娘ですしね。一緒に行ってはくれませんから、元々どなたかに差し上げるつもりだったので」
「申し訳ありません。ありがたく頂戴します」
「じゃ、俺も一緒に行かせてもらいます。いただきます」
「いいえ、楽しんできてください」
小栗君と行くというのにはちょっと引っかかりを感じるけれど、嬉しそうな翔太の顔を見ていたら何も言えなくなった。
サッカーの試合なんて、父親には連れて行ってもらった事はない。
勿論、一緒にボールを蹴った事すらない。
それを小栗君がやってくれるという…。
ありがたいのだけれど、どこか複雑な気分だった。
お会計は、気前よく部長が全部払ってくれた。
「すみません。御馳走様でした」
「ご馳走様でした!」
「翔太君、美味しかったですか?」
「はい! すっごく美味しかったです!」
「それは良かった。では藤森さん、気をつけて帰ってください。僕たちは一度帰社しますので」
「はい、ありがとうございました」
「では、また明日」
「お疲れ様でした」
二人が乗ったトラックが駐車場を出て行くと、私は翔太と手を繋いで歩き始めた。
家に着くまで、翔太は終始ご機嫌で、部長に貰ったサッカーの試合が楽しみだと、しきりに言った。
そして、小栗さんが約束してくれたサッカーの練習も、凄く期待している様子が伺えた。
翔太には聞こえないように、小さく溜息をつく。
このまま小栗さんの罠に嵌っていってしまうようで、少しだけ不安があったから。
でも自分が気持ちをしっかり持っていれば、きっと大丈夫。
そう思い直し、翔太の手をぎゅっと握り締めた。