Once again…
異動
このところ、ちょっと食欲が失せてたからか、体が少し軽くなった。
スーツも何着かお直しに出して、ウエストとヒップを詰めてもらった。
「俺、もう少し触り甲斐のある方が好み…」
「意味分からないですから」
「だからさー、もうちょっとこう…肉付きがさー」
「…いつから小栗君は、デブ専になったんです?」
「別にそんな、デブ専じゃないですし。でも安井さんだってガリガリに痩せてるよりは、ある程度肉付きがいい方が良くないですか?」
「うん、そりゃ確かに」
「…お二人とも…それ以上はセクハラになりますからね」
軽く睨みつけると、安井様は肩を竦めながらうっすらと笑う。
その日は、小栗さんに連れられて、安井様と打ち合わせに来ていた。
正式に資材部から、営業1課に異動になったのは4日前のこと。
斎須さんや寺尾さん、他にも何人かが一緒だった。
クローゼット部は資材部と統括になり、大木部長が取り仕切る事になった。
移動となった私達は、営業補佐と言う立場での移動だったので、基本的には営業に同行する事はない。
けれど、今…私は何故か小栗さんと一緒に営業に来ているわけで。
でも正直言って、私は事務方なので、営業のいろはも分からない。
なのに、今ここにいる。
「部署は変わったって、やる事は変わらない。連絡形態が変わって逆にやり易くなった位だ。だから大丈夫だ」
異動になった時に、小栗さんがそう言ってくれた。
営業に出る事はないって聞いて、安心もしていた。
「営業に出る事なんかないって言ってたのに。なんで私、ここにいるんでしょう…」
「ま、たまにはな…」
飄々として【たまには】何て言っていたけれど、異動して以来毎日一緒に外回りをしている。
「たまにはじゃなくて、毎日出てるのはどうしてでしょうね」
「たまたまだって」
「…僕はそこに、小栗君の姑息な意図が見えるけどね」
「やっぱり見えますよね?」
「見えるねぇ。しかも藤森さん、離婚成立したんでしょう?じゃあ、尚更黒いものが見えるねぇ」
「…安井様に見えるのなら、間違いないかもしれません…」
「おいおい…酷いなぁ。そんな、犯罪者みたいに…」
「一歩間違えれば同じです」
「藤森…」