Once again…
勝手な事を…。
明日は外出する必要はないようだけど、この杉という営業は曲者だ。
正直、この杉さんの話は要領を得ない。
だから明日の資料作りは、何度も何度も確認する必要が出てくるだろう。
「じゃ、これ明日中に頼める?」
大量の紙の束と、CD-Rを渡される。
「明日中…ですか…」
「ある程度必要な事は、こっちに書き出してあるから。出来ればパワーポイント用のデータも作っておいてくれると助かる」
「え…パワーポイントもですか?」
「うん、そう。プレゼンがあるからね」
「…」
「うわー、杉さん。まだやってなかったんすか?」
「お前が言うな! お前が独り占めしてなきゃだな、もっと早くに出来てんだよ!」
「えー、いつもギリじゃないっすか」
「…持って帰ってやらないと…明日中には無理かもです…」
「じゃ、持ってって…」
「…」
今夜はまともに眠れないだろう事を、私は覚悟した。
そして、実際にベッドに潜り込んだのは、もうすぐ4時になるだろう明け方。
2時間くらい仮眠して、資料を広げたままだったテーブルの上を整理する。
カーテンを開けると、入り込んできた朝日が寝不足の目をチカチカとさせる。
ベランダで栽培しているハーブと野菜に水をやり、何の気なしに直ぐ下の路地を見下ろした。
「あれ…?」
丁度、部屋の真下。
見覚えのある車が止まっていて、よく知っているその持ち主がこちらを見上げていた。
大量に資料や資材の乗った白いバン。
私のスーツの襟についている社章と同じマーク…TAJIMAの文字をデザイン化したものだ。
「よう。昨夜は眠れたか?」
笑顔でこちらを見上げているのは、いったいいつからいたのか…小栗さんだった。
「…いつから来てたの?」
「1時間くらい前かな」
「…何か食べたの?」
「いや、まだ」
「これから朝食の用意するから…食べるならどうぞ…。若しくはコーヒー入れますから…」「ラッキー。今行く」
程なくして小栗さんが上がってきたので、無言で迎え入れる。
そして朝食の用意をするために、キッチンに向かう。
そして冷蔵庫から卵を3つ、小分け冷凍しておいたひじきの煮物、茹でたほうれん草を取り出した。
ひじきは解凍して、割りほぐした卵に混ぜて卵焼きにする。
ほうれん草も解凍して水分を軽く絞ると、翔太が大好きな胡麻和えにした。
炊きたてのごはんと、根野菜をたくさん入れた味噌汁。
あとは魚肉ソーセージやウインナーを焼いてテーブルに並べる。
そこに小栗さんが起こしてきたのだろう翔太が、小栗さんと一緒に興奮した様子でダイニングに入ってきたのが見えた。