Once again…
「あんまり、翔太を混乱させないでくれないかしら」
「混乱ってなんだよ」
「だって…」
「俺は本気で、お前ごと翔太を受け入れる心積もりは出来てるぞ?」
「でも」
「でもなんてもう言わないでくれないか? 前の旦那の事もあるから悩むのは解る。でも、だからこそ本気で考えて欲しい」
「小栗さん…」
「ほら、俺達も早く行かないと。遅刻だぞ?」
「え? あ! やだ、こんな時間!」
「荷物はこれか?」
「ええ、そうよ」
「じゃあ、運んでおくから、早く降りて来い」
「ええ…」
書類の入ったバッグを持って、先に玄関を出て行く小栗さんを一瞬だけ見送る。
そして急いで着替えると、食器を下げて、バッグを手にする。
時計を目に入れると、慌てて部屋を飛び出した。
駐車中の小栗さんの社用車に駆け寄ると、急いで乗り込んだ。
「忘れもん、ないな? じゃあ、行くぞ」
車を出して、暫くの間は無言で時間が過ぎていった。
「綾子、お前さ。無理だけはすんなよ?」
「なあに? 急に…」
「営業補佐ってさ、みんな癖のある営業ばっかりだし、結構面倒な事押し付けられるんだよ。でもお前は翔太もいるし、何でもかんでも引き受ける必要はないって事だよ」
「でもこれで食べていくのよ? そんな事言っていられないわ」
「うん、だから少しは頼ってくれないか?」
「小栗さん?」
「俺も出来る限り、お前と翔太を支えるから。お前も無理な作業まで受け取るな。今回の杉さんは自分でやらな過ぎてる。ここ最近の杉さんの事は、営業部でもちょっと問題視されてるんだ。だからお前が全部抱え込む必要はない」
「問題視って…」
「この間の松田の一件な。これには関わってなかったみたいだけど、松田とはこそこそ何やらやってたらしい」
「そんな…」
「だからもしかしたら、杉さんは営業から閑職に移されるか、地方に飛ばされる」
あの女性はいったい何人を巻き込んで、人に迷惑させていたんだろう。
これで杉さんが、本当に閑職や地方に移動となったら、彼の人生も変わってしまうことになるわけで。
それが彼女に関わったがために被るのだと思うと、発する言葉が見つからなかった。