Once again…
「そうなのか?」
「え、いえ…少しは寝ていますので…。それより杉さんは…」
「ああ、本題だが、今日から暫く杉は出社停止となった。その後、徳島の支店に行かせる事になった」
「じゃあ、今日のプレゼンはどうするんです?」
「私も一緒に出向いてフォローする。なので、小栗と藤森で引き継いで欲しい」
「はぁ? 今日、今からですか!」
「幸い、プレゼンは午後だ。小栗も今日は出る予定はなかっただろう? 午前中に内容を頭に叩き込んで、データもチェックして欲しい」
「無茶苦茶言いますね…。でも仕方ない、杉さんの尻拭いはこれを最後にして頂きたいですね」
「善処する。頼んだぞ」
「藤森、ちょっとコーヒー入れてくれる? 俺のと…お前の分もな。それと、小会議室が空いてるから、そこを使うぞ。資料とUSBメモリは俺が持っていくから、一緒にデータチェックしよう」
「はい…」
こんなに急に、しかもさっき聞いたばかりの話が実話になって動揺しているのに。
なのにこの案件をいきなり振られても、小栗さんは落ち着いているようで。
急いで給湯室に向かうと、ちょっと大きめな小栗さんと私のマグを取り出す。
私は暖めた牛乳か豆乳を使ったラテが好きで、どちらかを買い置きしている。
冷蔵庫から豆乳を取り出し、自分用に少しだけ小鍋で軽く暖める。
それと一緒に薬缶を火にかけると、1杯ずつドリップ出来るワンタッチのコーヒーを棚から取り出した。
ここはお茶もそれなりにいいものを置いているし、紅茶は三角形のティーバッグと、リーフも小さな缶で置いている。
コーヒーも勿論インスタントもあるけれど、こうやって1杯ずつドリップが出来るものまである。
社長のこだわりらしく、砂糖も数種類置くほどだ。
今日はラテ用に自分で置いてある蜂蜜を少しマグに垂らし、温めた豆乳を注ぐ。
そしてコーヒーをマグにセットし、ゆっくりと熱湯を注ぐ。
「小栗さんは…ブラックよね。いつもだけど…」
コーヒーの入ったマグを二つ、トレーに乗せて小会議室に向かう。
会議室の扉は少し開いていて、トレーを持っている私が入りやすいようにしてくれていたのだと気付く。
そんなところも…あの頃と変わっていない…。
そして、そんなさりげない思いやりを示してくれる彼が、あの頃の私は凄く好きだったんだと思い出していた…。
どこからこんな風に、道が分かれてしまったのかな。
変わってないと言ってくれている彼。
また進んでいた道が交差してしまったけれど、これからはまた分かれてしまうのかな…。
それとも交差したまま、ずっと続いていくのかな…。
でもそれは、きっと私の返事次第なのは解っているけれど…自分がどうしたいのかまだ良く解らないでいた。