Once again…


 その晩の小栗さんは、遅くまで我が家に滞在し、翔太の相手をしてくれた。
翔太も本当に嬉しそうで、見ていて私も嬉しくなった。
翔太が眠ってしまった後、リビングに戻ってきた小栗さんの顔は満足そうだった。
「お疲れ様。ありがとう…あの子ったらすっかりあなたに懐いちゃったわね」
「そうか? そうならいいんだけどな」
「…」
 リビングの隅にある私の、DVDラックも兼ねている本棚に近付く。
「これ…まだ持ってたのか」
「気に入ってるものだから…」
 彼が手にしたものは【三銃士】のDVD。
何度か製作された、17世紀フランスを舞台にしたアレクサンドル・デュマの書いた話だ。
私が持っているのは、そのうちの7作目にあたる。
三銃士を含め続編まで、今までに11度映画が作成されている。
「原作も読んでたよな。まだ持ってるのか?」
「あるけど…全部がどうしても揃わなくて」
「何が?」
「さすがに古い話でしょう? ブラジュロンヌ子爵だけ、全部揃わないままなの」
「そうか…」
「仕方ないわね、これだけ古いんだし」
 小栗さんは黙ってDVDのパッケージを眺めている。
棚の中には、2人で一緒に見た映画のDVDが並んでいるのを思い出した。
「あ、あの…」
「懐かしいタイトルが揃ってるな。この辺の、俺と一緒に見た映画ばっかりだ」
 そして嬉しげに目を輝かせて、こちらを振り返る。
「…別に意味はないわ」
「ほんとに?」
 期待に満ちた目をまっすぐにこちらに向け、私の返事を待っている。
でもどう答えていいのか解らない…。
「…私はね…これから翔太と2人で生きていかなくちゃいけないの。でもあなたは違う。あなたは…いつか誰かと幸せにならなきゃいけないのよ。私達はそれを邪魔したくないの」
「俺はね、他の女はどうでもいいんだ。綾子と翔太と3人で幸せになりたいと思ってる。さっきも言ったろ? うちの家族からの反対は、絶対にありえない」
「でも私は…」
「もう離婚してるんだし、法的に結婚出来るようになるまでは待つよ。でも俺はもう諦めるつもりはない。絶対に綾子と翔太を手に入れてみせる」
 その言葉に、返す言葉が何も出てこなかった。
「今夜は帰るよ。ゆっくり寝て?」
「え、ええ…ありがとう…」
「じゃ、また明日な」
 おやすみ…そう言って、私の頬に手を伸ばす。
するりと指の背で撫でると、玄関に向かう。
見送りと戸締りのために、彼の後を追う。
でも私はまだ迷っていて。
このまま帰してしまっていいのかを迷っていて…。
彼が靴をはいている時に、シューズボックスの上に置いてある予備の鍵が目に入った。
「…修平…」
 久しぶりに呼ぶ彼の名前に、驚いたように振り返った。
そして黙ったまま彼の手を取り、その鍵をその掌に落とした。


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