Once again…


 翌日もいつも通りに出勤する。
ごみを捨てたり、各デスク周りの清掃の後、給湯室に残っていたカップを洗っていた。
「おはよう」
「…おはようございます」
 眠そうな顔で入ってきたのは小栗さんで。
「悪いんだけどさ、コーヒー入れてもらってもいい?」
「…眠そうですね。無理して寄るから…」
「無理はしてないよ。嬉しすぎて眠れなかっただけ。やっと誰かさんが、少し歩み寄ってくれたみたいだからね」
「…翔太に余計な事、言わないでくださいね? 期待外れに終わったら、あの子…」
「駄目になんてしないよ。俺は、それだけ本気だって事。ちゃんと翔太のことも考えてるから」
「…ちょっと濃いめにしましたから、ミルクだけでも入れてください」
「ありがとう」
 入れたコーヒーと一緒に、ポーションミルクを2つ手渡す。
その場でミルクを入れると、ありがとう…ともう一度言うと戻っていった。
洗い物を済ませると、私も業務が始まる前に戻る事にする。
そして自分の席に着く前に、たまっている伝票を手に取った。
 朝礼の後、早速入力を始めると、書類の束を持った小栗さんが背後に立った。
「これも頼んでいいか?」
「はい、急ぎですか?」
「いや、まだ大丈夫。 2・3日中に出来れば助かる」
「解りました。お預かりします」
 伝票の束を受け取ると、内容を確認する。
その中にはメモと一緒に、銀行のカードが1枚入っていた。
メモには今夜食べたいものと、カードの暗証番号。
そして、自分が行く事で増える食費の足しにして欲しいとも書いてあった。
「食費の足しって…・毎日来る気かしら…」
 一気に押し切られていくような、そんな予感がする。
そして聞こえないように、溜息を1つついた。
ばれていないと思ったのに、社内メールで【溜息つくなよ】と直ぐに届く。
…どれだけ地獄耳なの?
今度は聞こえてもいいと、大きく溜息をつく。
「藤森、何か問題でもあったか?」
「いいえ…別に」
「そうか?」
「ええ、特には」
 っていうか、問題あっても今は言えるわけないじゃない!
このままだとYESと言うまで、気苦労が絶えないのかな・
ちょっぴり、鍵を渡すのを早まった様な気がしてしまう。
既にほんの少しだけ、後悔をしているのだった。


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