Once again…
少しだけ自分より低くなった彼の目を見て、翔太が訴えるように口を開いた。
「だって、僕のおとさんになってくれるんでしょう? 違うの?」
「違わないよ。俺が翔太のおとさんになる。ずっと一緒にいる…ありがとう、翔太」
少しだけ目が赤くなっている修平が、私を見上げる。
「どうしよう、俺。今、滅茶苦茶幸せだ…」
「…家を買うかは、私達も一緒に見に行ってからにしてね」
「ああ、そうだな。一緒に見に行こう…」
私が修平をもう一度受け入れようと決めてから、色々な事が一気に動き出した。
一緒に見に行った建売は、お互いに建築に関わる仕事をしている分、見る箇所が細かくなる。
耐震設備もそうだし、内装、塗装に至るまで細かくチェックを入れる。
クローゼットやハンドル等も、私達の勤務先であるTAJIMAの製品であったし。
一番気に入った戸建ては、システムキッチンの高さが少し低いので、少し高めに調整が可能らしく購入が決まれば早速手配してくれるという。
ローン申請に必要な書類を受け取り、3人揃って帰宅をすると、見取り図を広げて家具の配置や部屋割りを話し合う。
自分用の個室を持てると、翔太は大喜びだった。
購入予定は3SLDKの一戸建て。
私達の寝室と、仕事用の小さなサービスルーム、翔太の部屋…そして未来に増えるであろう子供の部屋。
そう考えた時に、彼の部屋にも、私達の部屋にも、荷物があまりないことを思い出す。
「…家具、買い足さなきゃ駄目ね」
「そういやそうだな…」
「でも今あるのは、小さいものばかりだし…いっその事リサイクルに出して買い換えた方が良さそうね」
そう言って私は立ち上がってキッチンに向かい、食器棚の引き出しから小さな箱を取り出す。
リビングに戻ると、その箱を修平に手渡した。
「何?」
「開けてみて?」
手渡した箱を修平が開ける。
中に入れてあったのは、私の預金通帳だった。
「…綾子、これは使えない」
「ううん、使って欲しいの。それがあると、隆弘との事をすっきりさせられないもの」
「…後悔してる?」
「ううん、後悔はしてない。離婚に至ったのは、お互いを思いやる気持ちが足らなかったからだもの。あなたとの生活の中でそれを繰り返さないように…、それだけよ」
「ありがとう…俺も頑張るよ。年下だから頼りなかったなんて言われないように…」
「そんな事は言わないわ。余所見をしないでくれたら、それで充分よ」
「お前なぁ、離れてる間も余所見出来なかった俺に、そんな事言うのか?」
「…一般論よ…」
「それならいいけどな」
一歩進んだ私達の未来への道。
それが今後、明るいものであって欲しい…それこそが私の本心で、願いでもあった。
ひたすら今後も続くはずの幸せを願っていた。