Once again…
新人の初仕事
「どうして? わざわざ助手席…」
「荷物が一杯だから」
きっぱり言われてしまうとなんにも言えなくなるけれど、普通ならカタログとかサンプルとかは助手席に置いておく方が楽なはずなんだけど。
「細かい事、気にすんなよ」
何か言いたげだったのがばれたのかもしれない。
そうなところは昔から変わらないんだな…。
「なあ…聞いてもいいか?」
「何?」
「いつうちの会社に入ったんだ?」
「3月からよ」
「…なんでって…聞いてもいいか? だってお前、結婚したんだろう?」
「離婚調停中…」
「あ、そっか…悪かった…」
「いいの。でも子供を育てていかなくちゃいけないし、頑張らなくちゃって思って」
「子供っていくつ?」
「6歳。1年生になったばっかり」
「男? 女?」
「男の子よ。学生時代の小栗さんと一緒で、サッカーに夢中なの」
「2人の時くらい、さん付けやめない?」
「…でもけじめつけないと」
「まあいいや、今はね。離婚調停ってことはさ、別居中ってこと?」
「うん、マンションは売るつもりだし。でもローンがいっぱい残ってるから、そうそう売れそうもないわよね。小栗さんは?」
「俺? 相変わらず独身だし、そう遠くもないところに実家もあるし、寮じゃなくて部屋借りてるけどね」
「そうなの。でももててそうだし、実家や寮じゃ困るものね」
「なんで?」
「だって女の子連れて行けないじゃない?」
「連れて行きたいと思う子がいなかったからね。この10年は」
「あら…」
「だから早く離婚しちゃって?」
「…は?」
「ほら、着いたよ」
意味不明な事を言われて呆然としていたところに、急に現実が見えて慌てて降りる準備をする。
駐車スペースに車を停めると、小栗さんはすぐに安井様に連絡を入れていた。
少し待って、安井様が搬入用に使う車を横付けしてきた。
「お待たせしました。急がせて申し訳ない。小栗君も藤森さんもありがとう、助かりました」
「いや、間に合って良かったですよ」
「お役に立てましたようで、本当に良かったです」
まずはカタログや伝票などの袋を手渡した。
その後で、持ち込んだ商品を安井様の車に移し、状態を確認していただいた。
「うん、大丈夫です。ありがとう」
安心した表情で小栗さんにそう言うと、私にも笑顔を見せた。
「じゃあ、僕はこれをすぐに現場に持ち込みますので…」
「ああ、その件なんですけども、こちらも同行させていただけますか。彼女にも現場で実際に見てもらえると、いい勉強になりますから」
「そうか、藤森さんはまだ新人さんだったね。落ち着いて対応してもらえるから、すっかり忘れてたよ」
「では、よろしいですか?」
「はい、大丈夫ですよ。じゃあ、行きましょうか」