Once again…
現場に向かう車の中。
「なあ、なんでお前を同行させたか分かるか?」
私たちの乗る車の前を走行する安井様の車をじっと見つめながら、小栗さんが私に聞いてくる。
「・・・極まれに資材の人間が現場に出向く事はあるようですけど、私のような新人が行く事なんて殆どなかったと聞いていますが」
「うん、なかったと思う。俺が入社してからは」
「じゃあ分かりかねます…」
「…安井氏が君に興味を持っていることと、俺が連れて行きたいって思ったからかな」
「…私は興味を持たれるような人間じゃないですよ。それに…なぜ?」
「なぜ…とは?」
「私を連れてこようと思った理由です」
「…まずはこれから、俺のフォローをさせようと思っていること。他にも俺と同じ企業の担当を持ってるだろ? 今後、増えていくと思ってほしい。それと…」
「それと?」
「…んー、まだ内緒」
「なんですか、それ」
「まあ、おいおい教えるよ」
「はぁ…」
意味深な笑みを浮かべて、ちらりとこちらを見る。
だがまだ走行中の車の中だ、すぐに目を前に向けた。
走行時間は1時間程度、初めて現場に足を踏み入れる。
といっても、すでに工事は最終段階なわけで。
現場の工事責任者に納品を済ませ、少しだけ内部を見せてもらった。
「藤森さんは工事現場なんて入るの、勿論初めてでしょう?」
「そうですね、こんな機会は今までなかったです。自分の関わった品物がどう使われているか、見ることが出来て良かったです」
「そうですか、ならばお連れして良かった」
「ありがとうございます、安井様」
「様はやめてよ、様は」
「はぁ…」
「ははは、安井さん、無理ですよ。昔馴染みにでもこんな対応するやつですから」
「小栗さん!」
「え? 小栗君って藤森さんと知り合いだったの?」
「ええ、元カノってヤツですよ。学生時代の。俺としては別れたつもりはなかったんですけどね、いつの間にか結婚して名前まで変わってたんで…連絡も取れなくなってましたから」
「ちょっと! そうゆうことは…こんなところで言う必要はないでしょう?」
「っていうか、藤森さんって人妻だったのかぁ。うーん、残念!」
「…は?」
「いやー、話し方も声も、お会いしてみたら見た目も結構好みだったんですけどねー。いやぁ、残念!」
突然のことで私も小栗さんも唖然とする。
それでも飄々としている安井様を見ていて、つい吹き出してしまった自分がいた。