Once again…
彼の気持ち…



 帰りの車内は、ずっと無言のままだった。
というか、私的にはプライベートのことをベラベラ話されたのも納得いかないけれど、勝手に捨てたみたいに言われてむかついていたから。
捨てた記憶なんかない。
だって、あの頃は転勤で引越しの準備もあったし、彼も受験で精一杯だった。
移動先で落ち着いて、彼も大学生活に慣れてきた頃には、メールしたって返事も殆ど来なくなっていた。
加えて言えば、彼からのメールも電話も皆無に等しかった。
だったら…捨てられたのは私じゃないの?
普通はそう思うはずだ。
なのに『別れたつもりはなかった』とか『いつの間にか結婚して…』なんて言う。
窓の外をぼんやり眺めながら、そんなもやもやした気持ちを切り捨てようって試みる。
「…何を考えてる?」
 ふいにそんな風に問われて、彼の方にチラッと視線を送る。
「…別に何も…」
「そんな風には見えなかったけど?」
「だとしても、自分の中で消化したい事なので、小栗さんには関係のないことです」
「それでも知りたい。今何を考えてるのか」
「…教える気はありませんよ」
「なぜ?」
「小栗さんの事じゃないからです」
「…そ…」
 嘘ばっかり…今考えてたのは夫との離婚調停の事でも、仕事の事でもない。
翔太の事でもなく…今日彼の言った言葉についてだった。
「…あの時さ、俺受験でいっぱいいっぱいだったろ?合格してもバイトばっかりでさ。綾子も転勤だったし、移動先は結構遠かったじゃん?」
「…今話す必要ありますか?」
「今じゃなきゃ話も聞いてくれそうもないからな。で、綾子からメールが来てもなかなか返事も出来なかったし、帰ってくるとバタンキューでさ…電話をかけてる余裕もなかった」
 信号で止まると、こちらをじっと見つめてくる。
その視線が真剣に付き合っていたあの頃のようで、なんとなく言ったまれない気持ちが一杯になる。
「…もう済んだことよ…」
「いや、まだだよ。だって俺は、別れたつもりはないからな」
「今更じゃない!」
「…お前は待てなかったのかもしれない。俺を信じられなかったのかもしれない。でも俺は、待っていてくれるって信じてた。誰よりもお前が好きだったから!」

< 9 / 65 >

この作品をシェア

pagetop