君とは違う私の世界。




さっきはあんなにも優しくエスコートしてくれたのに 今は全くの非ジェントルマンなのね。


「君はろくに階段も上れないのか。」


息ひとつ乱さずに 堂々たる振る舞いで キッと私を見下ろす彼の瞳に 苛立ちを覚えた。


「あまりに長い階段でしたから。」


嫌みをもらすと 表情ひとつ変えずに
「そうか、生きた人間にはそれは辛かろう。」
と 自分が生きていることをまるで否定するかのように言った。


「…あら あなただって生きた人間じゃない。嫌みな人なのね。」


言い終わると同時に 階段を上り終えた。


「休んでいる暇はないんだ。先程も言ったはずだ。手を打つなら早い方がいいんだと。全く のろまな奴だ。」


悪態をもらしながら 女性を一人置き去りに 長い廊下をスタスタと進んで行く。


すがるのが彼氏以外ない今の私にとって それは非常に腹立たしかった。


今が夜中である 私の知っている場所ではないという それくらいしか 予想がつかない。


何かに襲われそうになるし 助けてくれたのは礼儀の"れ"の字さえ知らない非ジェントルマンだし 長い階段を終えたと思ったら
今度は長い廊下が待っているし 更に礼儀のなってない非ジェントルマンにとんでもない悪態を吐かれるし…!!


大声を出すのは 女性としてどうかと思うけれど……





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