烏鎮(うーちん) 上海水郷物語2
「可愛いね、娘さんかい?」
と言った。静江は遊覧券の裏に大きく、

『王美麗』
と書いた。おばあさんは笑みながら文字を見つめ、
そのままうなづいて奥の部屋を指差した。

『まさか?』
ゆっくりと静江は奥の部屋に入った。台所で中年
のおばさんが炊事をしている。静江に気付いて、

「なに?ちょっとまってね」
とおばさんは言って、手を拭きながらこちらに出
てくる。間違いない王美麗さんだ。

静江の眼からどっと涙があふれてきた。声にならない。
「どうしたの娘さん?日本人?」
うなづきながら静江はロケットを手渡した。

美麗さんはじっと中の写真を見る。顔を近づけて
じっと見つめる。静江は遊覧券の裏に書いた
王美麗の字を指で示した。

今度は美麗さんの瞳が潤んできた。外に出て、
姉さん来てと叫んで二人で写真をのぞき込んだ。
< 12 / 32 >

この作品をシェア

pagetop