烏鎮(うーちん) 上海水郷物語2
「アメリカねえ。永住するつもりなんでしょう、
そのひと?」
「たぶん」
「シリコンバレーてどんなとこ?」
「全然知らない」
「そう」

「一度しかない人生」
「そうよね。一度しかない人生だよ、静江」
「でもまだプロポーズされた訳でも何でもないのよ」

「だけど、あなた間違いなく張り切ってるわよ」
「お母さんこそ」
母と娘はいつになく華やいでいた。

4月12日は暖かい無風の春霞。それでもちらり
ほらりと桜は散り続ける。次の一夜の嵐で

全部散ってしまうのかと思うと、風よ吹くな
そっとしといてと手を合わせたくなる。

京都駅の八条口で母を待たせ、孔明をつれて
戻ってきた時の母の一瞬のあんぐりとした驚きを
静江は見逃さなかった。

「はじめまして王孔明です」
「静江の母です。さ、どうぞどうぞ」
後部のドアを開けて二人が乗り込む。

「では行くわよ」
母の声は少し上ずっていた。
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